2026年6月、ウクライナ政府は、ロシア軍が使用する先端兵器の機種の約90%で、日本企業製の部品が確認されたと明らかにした。ウクライナ政府が、ロシアの最も高度な空中発射型長距離巡航ミサイル「Kh-101」の残骸を分析したところ、日本企業製のタンタルコンデンサが発見された。この部品は急激な温度変化や振動への耐性が高く、ミサイル誘導システムなど、信頼性が求められる軍事装備に不可欠とされる。
他にも、Shahed-136(ロシア名:Geran-2)攻撃ドローン、Lancet(ロシア製自爆ドローン)、Mohajer-6(イラン製偵察ドローン)などを分析したところ、100点以上の外国製部品が含まれるケースも見られた。
ロシアが日本企業製の部品を入手できた背景には、GRU(ロシア軍参謀本部情報総局)第20局が中心となって構築した「多層・分散・偽装型の影の調達ネットワーク」が存在すると言われる。このネットワークは、日本から第三国(香港・中国本土・トルコ・UAE・中央アジアなど) を経由してロシアに向かうという迂回ルートを使い、民生部品を軍需用途へ転用する構造である。
影の調達ネットワークとは
この調達ネットワークには、GRU第20局(調達専門ユニット)が大きく関わっている。同局は、日本など外国での調達活動を統括する組織であり、東京では アエロフロート東京事務所が「合法的カバー」として利用され、GRU要員が活動していた。
2026年7月12日、米紙ニューヨーク・タイムズによると、ロシアが2022年にウクライナに侵攻して以降、日本が西側諸国から追放されたロシア人スパイの活動拠点になっており、日本で調達した軍需物資がロシアに流れていると伝えた。ウクライナを含む各国は懸念を深めているという。
同紙によると、ロシアの航空最大手アエロフロート・ロシア航空の東京事務所で、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)将校マクシム・フィルチェンコフらが従業員を装って活動し、日本でハイテク機器などの物資を買い付け、アエロフロートの協力企業と連携してロシアに密輸しているとされる。ウクライナ政府はロシアのミサイルや無人機の90%に日本の部品が使用されていると推計しており、各国政府はこうした現状について日本に繰り返し警告してきた。
GRU将校マクシム・フィルチェンコフは、2024年2月頃に日本に入国していたが、7月12日以降に出国していたことが確認された。マクシムは、アエロフロート・ロシア航空東京支店長に身分を偽装し、ハイテク機器や工作機械を買い付け、アエロフロートと協力する東京都内の運送企業を通じて第三国に輸出した上で、ロシアに運び出していたとされる。
(アエロフロート東京支店長、ロシアのスパイ報道直後に出国…ウクライナが日本製品の輸出管理徹底を要請、読売新聞、 2026.723)
本来、GRUは、ロシア国防省の軍事情報機関であり、ロシアの対外軍事諜報・特殊作戦・サイバー作戦を担う最大規模のインテリジェンス組織である。FSB(国内治安)やSVR(対外諜報)と並ぶ三大情報機関の1つで、軍事情報収集(軍事技術情報、外国軍の動向)、特殊作戦(暗殺、破壊工作、秘密作戦)、サイバー作戦(軍事情報の窃取、選挙介入、サイバー攻撃)、 影響工作(世論操作、偽情報拡散)、軍需調達(GRU第20局)などが主要な任務である。
このGRU第20局の東京拠点は、日本企業の製品情報収集、商社・物流企業との接触、第三国への迂回輸出ルート構築、虚偽書類の作成・用途偽装などを担当している。
日本国内の商社・代理店・物流企業の段階では、表向きは通常の民生部品取引を装っており、発注数量は少量で用途説明は「研究」「修理」「交換部品」などとされ、最終用途がロシア軍需であることは巧妙に隠されていた。ここでは、部品は民生用途でも広く使われるため、日本企業は輸出管理リストを遵守していても、部品が最終的にロシアに向かい軍需転用されることは見抜けない。
その後、第三国の影のハブでは、部品はロシアへ直接送らず、第三国を経由して再輸出する。主要迂回地は、1つは自由港で金融・物流の利便性を持つ「香港」であり、香港企業が欧州・日本由来の部品を大量にロシアへ再輸出し、2022~2024年では 25,707件・約2,800万ドルの輸出例があった。他にも、広大な電子部品市場があり、再販業者が介在する「中国本土」、ロシア制裁に参加せず、物流拠点として重要な「トルコ」、金融・再輸出拠点である「UAE」、「中央アジア」(カザフ・キルギス・ウズベキスタン)、アエロフロートの路線を利用できる「スリランカ」、「ベトナム」である。第三国では、小規模商社が「表の買い手」として、虚偽のインボイス・用途説明などを行い、送り先の軍需企業の名前は一切出さない。電子部品は民生用途でも流通するため、輸出管理の網をすり抜けることは簡単だ。
最終地であるロシア国内の軍需産業・再組立工場では、イラン製ドローン(Shahed-136)などが国内で再組立・国産化し、大量生産されている。
影の調達ネットワークはなぜ成立したのか
日本は、最先端技術を扱う一流企業が多く、高品質な民生電子部品が豊富に生産されている。電磁レギュレーター、発振器、コンデンサ、GPSモジュールなど民生品には、デュアルユースの技術が使われ、容易に軍事目的にも転用可能である。しかも日本は主要国(G7・NATO・中国・韓国など)で包括的な反スパイ法がない唯一の国である。外為法のリスト規制が強く、再輸出リスクの検知が弱い。また、第三国である香港・トルコ・UAEなどが制裁の穴となっており、これらの国には小規模商社・ECサイト・在庫業者が大量に存在している。
ロシアの調達ネットワークは、「スパイ活動」「合法的な物流」「第三国迂回」「民生部品の軍需転用」が一体化した多層構造である。日本企業が直接ロシアへ輸出していなくても、第三国を経由することで合法的に見える形で軍需部品がロシアへ流れる。
日本人がどんなに平和を希求していても、日本が作る最先端技術の製品がロシアに不正に流入し、ミサイル、ドローンが大量生産されたならば、結果的に日本が戦争に関与してしまうことに変わりはない。ロシアの情報機関が関与している以上、民間企業に流出の抑止を任せるのはあまりにも荷が重すぎる。日本政府は、早急にスパイ防止法を新設し、防諜組織を強化する必要があるのは言うまでもない。