安倍政権に学ぶ、中国を動かす力

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副会長・元防衛事務次官 島田和久

 高市政権が発足から1年を経過した今、日中関係は非常に厳しい状況にあるが、第2次安倍政権も、発足から2年間、日中首脳会談ができなかった。民主党政権時代に尖閣諸島の国有化をしたことが大きな要因だった。そこで、安倍政権が発足後、どのような取組みを行ったのか、思い起こしてみたい。
 
 当時、米国はオバマ政権の下、対中融和を継続しており、米中関係は良好だった。この点も今と似ているが、民主党政権時代の米軍普天間基地問題の迷走を引きずり、日米関係も最悪だった。このため、日本の置かれた状況は、今より遥かに厳しかったと言える。
 
 このような中で船出した安倍政権は、グローバルに積極的な外交を進めた。中国との関係を動かすために、中国だけを見ていてはならない。地球儀を俯瞰する外交により、国際社会の中で日本の存在感を一気に高めた。日本の底力を見せつけたと言っていいだろう。中国にとって、日本を無視することができない存在へと高めていったのだ。
 
 政権発足から1年間の外国訪問は、25か国。延べで言えば29か国。高市政権の1年間では10か国だった。その前の石破政権も1年間で10か国だ。外交の密度には大きな差がある。
 
 このうち、安倍総理は国会閉会中に15か国を訪問している。夏休みにも寸暇を惜しんで外国訪問をした。高市総理が閉会中に海外に行ったのは1回、1か国だけであり、夏休みの海外訪問はなかった。国会出席日数が少ないと批判されているが、外国訪問も多くはない。
 
 さて、安倍総理は、具体的に何をしたのか。
 
 中国は南シナ海全てを自分の海だと主張し、力による一方的な支配を拡大していた。そこで、政権発足直後の2013年の1月から同年末までに、ASEAN10か国の全てに足を運んだ。日本の総理が在任中にASEAN加盟国全てを訪問したのは初めてであり、それを政権発足から1年足らずで達成したのだ。そして、各国首脳に国際法の遵守を訴えた。12月には、その集大成として、東京に10か国の全ての首脳を招待し、日本・ASEAN特別首脳会議を開催した。そして、ASEAN首脳とともに、「国際法に従った紛争の平和的手段による解決が重要だ」という共通のステートメントを発表したのだ。
 
 中国に対し、日本とASEANは、力による一方的な現状変更は認めない、という強いメッセージを送った。同時に、ASEAN諸国にとって、日本は法の支配を重視する頼りがいのあるパートナーであることを示したのだ。
 
 そして今度は、ヨーロッパ。政権発足から4か月後、訪日した北大西洋条約機構(NATO)事務総長との間で、「日本・NATO共同政治宣言」を発出した。軍事同盟であるNATOとの関係強化に大きく舵を切った。
 翌2014年5月には、NATOの本部を訪問し、北大西洋理事会で演説を行い、加盟28か国の代表と一堂に会して会談を行った。成果として、NATOと協力計画を締結し、NATOとの固い絆を世界に見せつけたのだ。
 
 次の舞台は主要7か国首脳会議(G7)だった。ロシアがクリミアに侵攻した後の初のG7であり、ロシアへの対応を巡って、米国のオバマ大統領とヨーロッパの首脳との間で、意見が大きく分かれ、長時間にわたり激論となった。
 
 アメリカは孤立し、あわや決裂か、と思われた時、安倍総理は、今こそ我々は団結しなければいけない、と言って、乱れた議論を整理し、自身でメモ書きした4項目にわたる合意案を提案した。これに基づいて、米国とヨーロッパが歩み寄り、合意がまとまったのだ。
 
 議長だったドイツのメルケル首相から感謝され、イタリアのレンツィ首相からはハイタッチを求められ、なんと、それまで冷たかったオバマ大統領は総理に感謝のハグをした。
 
 クリミア半島というヨーロッパの問題を巡って、米国と欧州の首脳の対立を、アジアから参加した安倍総理がまとめた。主要国の中で、日本のステータスは一気に高まり、オバマ大統領に大きな貸しを作った。
 
 短期間のうちに、地に落ちていた日本のステータスを回復し、国際的な威信と存在感を大いに高めたのだ。日本の力を中国に見せつけた。ついに習近平主席も日本を無視できなくなり、日本は何も譲歩することなく、首脳会談に至ったのである。
 
 それで喜んではいけない。首脳会談で述べたことが重要だ。何を言ったか。習近平主席に対して、「日本の領土、領海、領空は断固として守り抜く。安倍政権の姿勢を見誤るな」、と、面と向かって、釘を刺したのだ。習近平主席は、こいつは本気だと感じたに違いない。断固たる決意と国際的な存在感をバックとした対応は、大いなる抑止力を発揮した。
 
 安倍総理の積み上げた成果を受け、今年7月、日本はNATOの首脳会議に招待されたが、欠席であった。
 また、10月2日に開催されたG7のオンライン首脳会談も欠席であったことは記憶に新しい。政府は、首脳会議の議題がディーゼル燃料価格という欧米間の問題だったからと説明しているが、そうだとすると、アジアの問題の時は、欧米の首脳は欠席して良いことにならないだろうか。
 もちろん、いずれも、我々には見えない、様々な事情があったのであろう。
 
 安倍総理が習近平主席と会ったのは、政権発足から2年後。そう考えると、高市総理には、まだ1年ある。焦りは禁物だ。かえって足元を見られかねない。
 
 中国に首脳会談を求め、理由なき譲歩をすることが、日中関係を改善する道ではない。日本自身の力を高め、国際社会における存在感を強めることが、中国の対日姿勢を変える力にもなる。安倍総理の取組みは、そのことを教えてくれる。
 
 我が国が相対する、中国、ロシア、北朝鮮といった権威主義国家は、いずれも、力の信奉者だ。彼らと対峙し、平和と繁栄を維持するためには、外交力、防衛力をはじめ、日本の総合的な国力を高めていくことが必要だ。当面の重要な課題の一つは、安全保障3文書の改定だ。そこで示される日本の決意を、彼らは注視している。