中国の電気自動車や風力発電、産業用ロボットを動かす磁石など、その供給をたどると、中国の工場のさらに奥に、ミャンマー北部の紛争地帯が現れる。先端産業の安定が、山間部の鉱山と武装勢力の判断に左右されているのである。レアアース問題の本質は、中国による輸出規制だけでは捉えられない。世界への供給を左右する中国自身も、国境の向こう側に弱点を抱えているのだ。
中国は2025年4月、ジスプロシウム、テルビウムなど7つの元素に関連する物資を輸出管理の対象にした。これら二元素は、磁石の耐熱性を高めるために用いられる重要物質だ。規制は全面禁輸ではなく、輸出に許可を求める制度だが、必要な時に部材が届かなければ、生産現場では禁輸に等しい打撃となる。事実、国際エネルギー機関(IEA)によれば、規制後には磁石の輸出が急減し、一部の自動車メーカーが減産や工場の一時停止に追い込まれた。
ここで注意すべきは、規制の強化と緩和を区別することである。2025年10月に発表された追加措置の一部は、同年11月の公告により2026年11月10日まで実施が停止された。ただし、2025年4月の規制まで撤廃されたわけではない。一時的な緩和を、供給不安の解消と受け止めることはできない。中国が供給の条件を自由に変更できる構造そのものが、企業の投資や調達判断に暗い影を落としている。
なぜ中国の判断が世界を揺さぶるのか。IEAによれば、2024年の磁石用レアアースの採掘に占める中国の割合は約60%だが、精製では約91%に達する。鉱石を掘り出すだけでは、高性能磁石はできない。鉱石を分離し、金属や合金に加工するプロセスが必要である。中国に精製が集中しているため、別の国で鉱山を開発しても、中国への依存を直ちに断ち切れるわけではない。例えば、米国は長らくレアアース鉱石を採掘して中国に送って加工していた。
レアアースのサプライチェーンに潜在する「二重の依存」
中国が今年9月に輸入した希土類酸化物は5,021トンに上り、前月比で約23%増加した。このうち約70%に当たる3,514トンがミャンマー産で、ラオス産と合わせると輸入量の大部分を占めた。1月~9月の中国の希土類酸化物の輸入総量は46,466トンで、前年同期比では約14%増加した。
ミャンマーは、重希土類の主要供給国であり、特に高性能磁石に使用されるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)など、世界の重希土類生産の約半分を担うとされる。主な鉱山は中国雲南省と国境を接するカチン州およびシャン州北部に集中している。
ここで問題となるのは、それらの鉱山の多くがミャンマーの軍事政権の支配下ではなく、「カチン独立軍(KIA)」や「タアン民族解放軍(TNLA)」などの少数民族武装組織(EAO)の支配地域にあることだ。そのため、中国への輸出は通常の国家間貿易ではなく、EAOとの取引に基づく国境貿易が中心となっている。EAOにとっても、重希土類の輸出は武装闘争を継続するための重要な資金源だ。
中国がミャンマーから輸入した重希土類酸化物は、2021年の約19,500トンから2023年には約41,700トンへ増加した。現在のレアアースのサプライチェーン網においては、世界が中国の精製能力に頼り、中国がミャンマーの原料に頼るという、「二重の依存」が存在するのである。
このレアアースをめぐる関係を揺るがしたのが、カチン独立軍(KIA)の攻勢だった。KIAは、カチン民族の自治を求めてきた民族武装組織であり、2024年秋には、中国向け供給の重要拠点であるパンワ周辺などの鉱山地帯を掌握した。それまで軍側に近い民兵が支配していた主要産地で、取引相手となる実効支配者が交代したのである。
中国にとって、これは難しい事態である。ミャンマーの政府軍側との関係を保ち、国境の安定を確保したい反面、鉱山を握るKIAを排除したままでは、原料調達が滞りかねない。中国の国家としての対ミャンマー政策と、中国企業の鉱物調達上の利益は、必ずしも同じ方向を向いていない。
2025年7月、中国側はKIAに対し、「要衝バモーへの攻勢をやめなければ、支配地域からのレアアース購入を停止する」と警告し、資源取引を停戦圧力に用いようとした。一方、KIA側から言えば、鉱山を支配すれば、課税と取引条件を通じて収入と交渉力を得られる。中国が重希土類を必要とする以上、中国からの購入停止の条件には限界があると見込んでいた。ただし、原料を売るには国境を越える物流と加工先が必要であり、中国市場から完全に離れるのは容易なことではない。中国は買い手として圧力をかけ、KIAは産地の支配を交渉材料にする。この非対称な相互依存こそ、両者の関係を危うくしている。
中国の許可審査がレアアースの供給を絞り、ミャンマーでは国軍と独立派の戦闘、鉱山支配権の交代、国境取引の制限が原料供給を揺さぶる形となる。両者が重なれば、通常の価格上昇では解決しにくい調達難となる可能性もある。自動車、家電、スマホなど世界の企業は、中国政府の政策判断と、ミャンマーの戦況という2つの不確実性を同時に背負っているのである。しかも、レアアースの問題で忘れてならないのは、安価な調達の裏には加工段階での環境被害と住民の負担があることである。中国においても環境被害は深刻だが、カチン州でも採掘拡大に伴う水質汚染や健康被害の訴えが報告されている。
中国に対抗する米国と日本
米トランプ政権は、9月中旬、米国務省情報・調査局のバンス次官補率いる代表団がミャンマーの首都ネピドーを訪問してミン・アウン・フライン大統領と会談したとされる。その背景には、中国がほぼ独占しているレアアースの調達先を多様化する狙いがある。バイデン政権が民主化勢力支援を重視したのに対し、トランプ政権では「中国の影響力拡大を防ぐこと」が優先されており、これまでの制裁を緩和する方向にある。水面下では、米国は主要鉱山を支配しているKIAなどの独立派武装組織とも接触している可能性が高い。
レアアースは、鉱山を支配する者、加工技術を持つ者、国境を開閉する者が、それぞれ供給を左右する。中国とカチン独立派の関係は、その現実を映し出している。日本に必要なのは、危機のたびに中国の輸出再開をただ待つ姿勢ではなく、ミャンマー政府に制裁緩和を条件に積極的な外交を仕掛けるとともに、独立派武装組織との関係改善も図って、中国に戦略的に圧力をかけ続けるべきである。