韓国で相次ぐベトナム人妻の殺害事件

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 去る6月末、ソウル市内で韓国人男性と結婚していたベトナム人女性が夫の父親(義父)に殺害される事件が発生し、大使館を巻き込んだ外交問題に発展している。韓国人男性と結婚して韓国に在住しているベトナム人女性の数は公式統計で約4万人(2015年末時点;国籍別で第1位、全体の31%)、一説では10万人以上と言われており、文化・習慣や言語の違いもあって、離婚騒ぎや家庭内暴力などのトラブルが絶えない。彼女たちが殺害される事件は毎年のように発生しており、ベトナム国内でも大きく報道されて、その都度、国民的な怒りを惹起している。
 韓国では、過去10数年来、男性の国際結婚率が急速に高まっている。今や、韓国人男性の7~8人に1人が外国人女性と結婚する状況にあるが、この背景には韓国社会の国際化だけではなく、特に農村部における貧困化の問題などで、結婚相手を容易に見つけられない男性が増えているという事情がある。その一方で、中国(北部)や東南アジアの貧困地域では若い女性が貧しい境遇から抜け出すことを夢見て韓国や台湾の男性との結婚を望む状況が生まれている。これらの男性は多くの場合40~50歳の年配者であり、女性側は20~25歳だという。いささか不釣り合いだが、ともあれ需要と供給の原理が働いているのは事実。勿論、そこには当然のごとく結婚斡旋業者が介在し、中には金儲けをたくらむ悪徳なブローカーも存在して、騙したり騙されたりの世界が生まれている。
 韓国人男性と結婚する外国人女性の圧倒的多数が中国とベトナムの女性であり、両国だけで(朝鮮系中国人を含めると)全体の70%近くを占めている。ベトナム国内(特にホーチミン市やカントー市などの南部)では、韓国人男性との結婚を斡旋する業者の数が増え、あちこちで頻繁に違法な「お見合いパーティ」が催されているようで、観光客を装った韓国人男性がグループでベトナムを訪れ、人身売買もどきにベトナム人女性を物色しているとの噂が絶えない。私がハノイに駐在していた2008-10年当時にも違法な集団見合いの摘発が相次ぎ、大きな社会問題になっていた。ホーチミン市の隠れ家のような民家で、韓国人男性7人に花嫁候補のベトナム人女性161人(既婚者も多く含まれていたという)が集まって「お見合いパーティ」をしていたとの報道を目にしたし、韓国人男性1人に若いベトナム人女性68人が集まり、女性を裸にしてファッション・ショーのように壇上を歩かせ、好みの女性を物色している現場が摘発されたとの驚くべきニュースもあった。(昨年11月に、ベトナムのある女性団体が発表した調査結果によれば、結婚前に韓国人の夫と会った回数は1~2回が70%、3~4回が21%だったという。これも驚きである。)
 こうした女性たちは貧しい家庭の出身者で、教育水準も総じて低いようだ。結婚が成立すれば韓国人男性の側から斡旋業者に大金が払い込まれ、女性の親元にもまとまったお金が渡されているため、一見して人身売買の様相を呈する。こうした状況に、ベトナムの女性団体や国際人権団体が懸念の声をあげ、両国政府も対応策を協議するに至っている。
 2014年には国際結婚に関わる法制度を厳格化し、女性側が意に反した結婚を強いられない手続きが定められたようである。50歳以上の男性との結婚を原則禁止にしたり、20歳以上の年の差がある場合は結婚許可書の発給に当たって当局との事前面接を義務付けるといった内容が盛り込まれている。その効果があってか、韓国人男性とベトナム人女性の結婚件数はかつての年間8~9千人から今では3~5千人のレベルまで減少しているという。しかし、国際結婚するベトナム人女性が毎年10万人いると言われる時代に、韓国側に需要がある限り、人身売買まがいの結婚斡旋はなくならないだろう。
 なお、我が国の場合、日本人男性と結婚して日本に在住しているベトナム人女性は2500人ほど(2016年末時点)で、全体の1.8%と少ない。国籍別で7~8番目である。尤も、ベトナム人女性と結婚してベトナムに在住している日本人男性が少なからず存在する。私の友人もそうした日本人男性の一人である。