「海外留学」の日中韓トライアングル

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 近年、日本に来る韓国人留学生は1万5千人くらいで、毎年わずかながら減少傾向にある。米国が彼らのお気に入りの留学先であることは変わらないが、最近、韓国政府が公表した資料によれば、中国留学組が急速に増え、2016年11月時点ではついに米国を追い抜いて留学先第1位になったようである。留学生総数は223,908人で、そのうち中国留学組が66,672人、米国留学組が63,710人というから確かに逆転している。第3位はオーストラリアで16,251人、そして4番目が日本で15,279人となっている。
 これに対し、我が日本の海外留学状況はどうかというと、2015年度に関するJASSO統計(2017年3月発表)によれば、総数が84,456人で、留学先は米国(18,676人)、カナダ(8,189人)、オーストラリア(8,080人)、英国(6,281人)の上位4ヵ国(すべて英語圏)だけで全体のほぼ半数を占めている。中国への留学は5,072人、韓国へは4,657人で、留学先としては5番目、6番目である。ただ、海外留学といっても留学期間が1ヵ月に満たない者が全体の49%を占め、1年を超える本格的な留学はわずか1,913人(1.65%)に過ぎない。全体の男女比を見ると、2:3で女子学生の割合が高い。私が大学で教鞭をとっていた時の経験でも、女子学生の方が海外留学に積極的であるように見受けた。
 ここで、日韓の留学状況を人数で単純比較すると、米国への留学では韓国人学生が日本の3.4倍だが、中国への留学ではこの比が13.1倍になる。これが何を意味するかは明らかであろう。将来に向けた人的パイプの構築という観点から見れば、米国との関係はもとより、特に中国との関係で、韓国は日本よりはるかに強い人間関係の絆を持つ可能性が高いのである。
 最後に、中国の海外留学事情をチェックしてみよう。最近、中国教育部が明らかにした数字によれば、2016年に新たに海外留学した中国人学生数は何と54万人(うち30%が米国、21%が英国)に上る。さらに、これを加えた「留学中」の学生の総数は136万人だというから、日本と比較するとケタが1つも2つも違う。このうち日本に来ている中国人留学生は約10万人だが、全体から見れば7%ほどに過ぎない。海外から受け入れている留学生数でも昨年時点で中国の44万人に対し、日本は24万人(うち30%弱が語学学校生)で、しかも増加ペースは中国の方がはるかに高い。
 私は、一昨年、米国の大学で日本の政治経済事情アジア情勢について講演をしたが、会場には多くの中国人学生、韓国人学生がいて、質問の多くも彼らから浴びせられた。昔の米国の大学は日本、その後インドからの留学生が多かったという印象があるが、2010年に中国人がインド人を抜き、昨年には全留学生の30%を中国人学生が占めるという。かつて10%を超えていた日本人留学生の割合は今や2%以下だというから全く様変わりしてしまったのである。
 勿論、多くの学生が留学すればその国と留学先の国との関係が自動的に強化されるという単純な関係にはないものの、やはり、人間関係のベースで見れば、それだけ人脈(人的パイプ)が太くなることは確かであろう。このことによって、あと20~30年もすれば、アジアの国家関係も大きく変わる可能性がある。日本としても、中長期的視点に立って、海外への、そして海外からの留学生に対する奨学金予算を倍増するとか、個々の日本の大学において海外留学を奨励したり、留学生の受け入れ環境を劇的に改善するなどの開放策を一段と強化する必要があるのではないか。最近、企業が留学先で内外の人材をリクルートする動きが出てきているようだが、有能な人材を確保する目的だけでなく、日本人学生の海外留学に向けた新たな動機付けという副次効果もあり、これは大いに歓迎される。
 私は、大昔、フランスの大学に2年間留学したが、若き日の印象は強烈であり、今でもフランスには特別の思いを持っている。「たかが留学、されど留学」である。