巨大なカジノ都市と化したマカオ

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 先月末、12年振りにマカオを訪問した。既に前回訪問した2006年に、マカオは米国のラスベガスを抜いて世界一のカジノ集積地になったと言われていたが、まさか街全体がこれほどの巨大カジノ都市(大規模カジノが30以上ある)に変貌しているとまでは予想していなかった。つい20年前までは近接する2つの島を結んだ埋め立て地で、荒涼たる湿原が広がる一帯だった。正に、「中国パワー」の物凄さを見せつけられた感じだった。
 マカオが正式にポルトガルの植民地になったのは1887年だが、既に450年以上前の16世紀中ごろにはポルトガル人の居留地になっていた。中国に返還されたのは20世紀の末、1999年の12月である。その3年後にはカジノ開設に向けた動きが始まり、わずか4年ばかりでラスベガスを超える世界一のカジノ都市になった。その頃は、中国本土や香港の成金が大挙してマカオに殺到、フェリーは札束を抱え込んだおっさん達で溢れかえり、彼らによるマネー・ロンダリングの噂も絶えなかった。街全体にいかがわしい雰囲気が漂っていたように記憶する。
 今回、再度、マカオを訪問して、状況はだいぶ変わったなと感じた。移動のフェリーにも家族ずれの観光客が大勢乗り込んでおり、他のリゾート地に向かう場合とさして違わない雰囲気である。世界一のカジノがあるヴェネチアン・ホテル(2007年7月オープン)の3階は広大なフロア全体を使ってヴェニスの街が再現され、世界の一流ブランドの店舗が運河沿いに並んでいる。勿論、運河にはゴンドラが浮かび、観光客が「ヴェニス巡り」を楽しんでいる。天井には青空が描かれ、街を散歩すればヴェニスに瞬間移動した錯覚に襲われる。ホテルの部屋数は2000を超えるそうで、チェックインしても自分の部屋に辿り着くのが大変だという。隣接するホテルの部屋数は3000だというから想像を絶する。
 シテイ・オブ・ドリームズという別の巨大リゾート施設には大きな劇場(半円形に並んだ階段状の客席は3千人を収容)が付設されており、「ハウス・オブ・ダンシング・ウォーター」という超一流のアクロバティックな水上ショーを鑑賞できる。すり鉢の底に広い舞台がしつらえられ、フロアでパフォーマンスが行われたかと思うと、一瞬にしてそこが「海」(プールだが)に変わる。50mはあるかと思われる天井からはサーカスもどきにパフォーマーが次々と急降下してきたり、「海」にダイブする。席料は1万円以上するものの高額と感じさせない命がけのショーで、一見の価値はある。
 マカオは中国の特別行政区で、パタカという独自の通貨を持ち、港で「入国手続」をとってから入域する。街の標識には中国語(広東語)とポルトガル語が併記されている。年間の観光客数は2千万人を超え、カジノからの税収と合わせれば行政区の財政は十分以上に潤っている。そのため高校までの教育や医療が完全無償化されている他、55万人の区民には一定額の現金給付が行われ、格安の公共サービスを受けられる。同じ特別行政区でも香港とは全く異なる状況にあるようだ。
 翻って、わが国会でも統合型リゾート(IR)の開設を認めるかどうかの議論が行われているが、どうもチマチマとしていていただけない。スケールが小さい。マカオを見て来たあとだけに余計そう感じる。どうせやるなら世界をあっと言わせるような施設を作って欲しい。かつての安土城か大阪城を再現するくらいの巨大施設(基底部分にカジノとシアターを配置;上層部はホテル)を水掘(プール)で囲み、城下町風の家並みで囲んだら面白い。ショッピング・アーケードは京都の町屋風に統一し、町はずれに五重塔ならぬ50層の「五十の塔」(高さ200m超)を作ったらどうか。そのくらいの気概がないならIRなどやめた方が良い。数年前にマカオに日本のパチンコ屋が進出したが、すぐに潰れたと聞く。どうも日本人の考えることは「いじましい」のである。