ベトナム中部地域の戦略的重要性と中核都市ダナンの発展

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 ベトナムは日本列島に似て南北に長い国である。しかし、日本との違いは首都・東京が列島のど真ん中に位置するのに対し、ベトナムでは首都ハノイが国土のほぼ最北端にあり、最大都市ホーチミン市が南部にあって、中部が「空洞」のようになっていることである。5世紀頃から1千年の間、この中部地域一帯に「チャンパ(林邑)」と呼ばれたチャム族の国があって一時期はハノイにあったキン(ベトナム)族の歴代王朝を脅かすほどの強勢を誇った。近世に入って、「チャンパ」は北から南下したベトナム(越南国)に滅ぼされ、チャム族自体も多くが東南アジア各地に離散逃亡して、今日ではわずかの人々が少数民族として生きながらえているに過ぎない。19世紀にはベトナム初の統一王朝である阮朝の都が中部のフエに置かれたが、150年後の20世紀後半になるとベトナムは南北に分断され、中部地域はその境界に位置することになって、この地域は主戦場と化し経済発展から大きく取り残された。南ベトナム・最北端の町ダナンは北ベトナムを睨む米軍の戦略的要衝となり、ベトナム戦争末期の1974~75年には激戦が展開されて町は完全に破壊された。今でも中部地方を訪問すると戦争の爪痕が各地に残されており、地雷の除去が進んでいない地域も多い。
 しかし、近年になって、この中部地域が俄かに脚光を浴びている。1つには経済・観光開発が急速に進展していること、そしてもう1つは、ベトナム最大の軍港であるカムラン港やダナン港の戦略的な重要性が高まっていることである。ベトナムの地形を地政学的に見ると、中部地域はまるで太った人間の腹のように南シナ海に突き出ており、ダナン市はその「へそ」の位置にある。本稿では従来あまり注目されることがなかった「ベトナム中部」に着目して、その近況を見ることとしたい。

<ベトナム中部の戦略的位置付け>
 ベトナム中部の最大都市ダナンは人口103万人(2015年)、ベトナムに5つある政府直轄市の1つであり、近年、著しい経済発展を見せている。南シナ海に浮かぶベトナム領有の島々(南沙諸島)は行政上はダナン市に属する。この街が重要なのは地政学的にベトナム中部を抑える中核都市であることに加え、ベトナム第三の規模を誇るダナン港(軍民共用)を擁することで、ベトナム海軍の拠点港の一つにもなっていること、また、西に向かってインドシナ半島を横断する幹線交通ルート・東西経済回廊の東の起点になっていることなどである。ダナン国際空港も整備・改善が進み国際便の発着件数も急速に増えている。