資本主義は“実験” 結果を教訓として育っていく

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会長・政治評論家 屋山太郎

はじめに
 社会発展の体制として資本主義制度が良いか、社会主義制度が優れているか。1950年代に日本中を揺さぶった命題である。私は富が等しく公平に分配されるという点に強く惹かれたが、そういうことは現実に不可能だろうと疑って社会主義運動には没頭できなかった。当時大学の世界史の入試に備えて私が愛読していたのが林健太郎著の『世界の歩み』である。林氏はアメリカについて詳しく述べていたが、その章の見出しは「資本主義の実験室」というものだった。資本主義がこの先どうなっていくかアメリカを見ていると分かる。この国を見習いながら成功や失敗を学んでいけば、日本の政治に役立つだろうという趣旨だ。
 戦後のアメリカ政治を追いながら、日本は成功への道をひたすら手繰り寄せてきた。これは安倍晋三首相もよく言うことだが、米、英、仏がそれぞれの植民地を抱えてブロック経済に踏み切った。そこから締め出された日本はほぼ全世界を相手に戦争に打って出ざるを得ないハメになった。その教訓があるから、戦後の貿易はWTO(元のGATT=世界貿易機関)の原則に各国が従いながら、小異を捨てて大同につく道を歩んできた。日米の自動車摩擦、日本のEC(欧州共同体)諸国への集中豪雨的製造業の進出など、大問題を起しながらもなんとか話し合いで解決してきた。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などは極めて高度で、特に中国に対して政治配慮の効いたシステムだ。私は今後も資本主義は“実験” 結果を踏みしめつつ、良い方向に流れていくのだろうと思い込んでいた。
 しかし世界では日本人の思い及ばぬ移民の大量発生という我慢のならぬ不満が膨満していたのである。

英国のEU「離脱」決定と移民問題
 2016年6月、英国の国民投票ではEU(欧州連合)離脱という“革命的” 動きを暴発させた。敢えて暴発と言ったのは、経済的には明白なる損。下手をすると国家経済を破綻させかねない危険な選択なのである。英国で生産されたモノ、カネはEU28ヵ国の域内ならば関税なしで輸出できる。英国にある日本企業1000社はEU域内への輸出が有利になると計算して立地したのである。国民投票に当たって企業は連名で「離脱」しないでくれと呼びかけた。現実に離脱となれば工場をフランスやイタリアに持って行かざるを得ないだろう。何が不満で英国はEUを離脱したのか。