世界が直面している3 つの混沌と安倍政治

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会長・政治評論家 屋山太郎

 ご紹介いただきました屋山です。私は政治記者として50年以上やってきまして、そのうち7年ほど外国にいましたが、日本は安倍政権になって漸く落ち着き、日米関係も正常化してきたと思っています。その矢先に、イギリスの欧州連合(EU)脱退、トランプ米大統領誕生という、正に晴天の霹靂と言いますか、これまでの世界秩序を揺るがしかねない出来事が起きました。

3つの“混沌”
1、移民問題
 イギリス国民はEUからの離脱を選択し、既成の枠組みを壊してしまうほどの衝撃が起きています。アメリカでも、メキシコとの国境に壁を作るなど、所謂、産業の廃れた地域の人たちがトランプを推したように、この問題は日本人が考える以上に、もの凄い文化の変化を起こすのです。
 私は50年程前ローマで記者生活をしていましたが、当時のヨーロッパの美しさは格別でした。その10年後はジュネーブに4年いました。娘がフランスで結婚した関係で、以来30年ほど毎年訪ねていたのですが、その度に街が廃れていっていると感じました。つまり日本なら異文化が混在しても互いに昇華し成り立つ訳ですが、イスラム教とキリスト教というのはそうはならないということです。ただ、日本には移民問題はありません。因みに昨年の日本への移民は280人ですが、ヨーロッパは100万人単位です。しかもEUができてドイツはホロコーストの贖罪意識からなのか、メルケル首相が100万人の移民を受け入れると言いました。そうするとシリアからもイスラム教徒たちが入って来ます。一旦EU圏に入るとEU加盟国28ヵ国を自由に行き来できるシェンゲン協定があります。従って、ドイツは国の規則等があまりにも厳しいということで、イタリア人に言わせると「きれいすぎて病院みたいだ」、「とても住んでいられない」と言って、逃げてしまうそうです。アラブの人たちも同様で、ドイツには居つかず他の27ヵ国に移っていく。その一つがイギリスです。イギリスは物価が安いし英語が通じる、しかも寛容であるということもフランスに次ぐ理由です。
 イギリスもフランスも、この3~40年前を知っている人は全く違う世界が出来たと思っています。私も毎年フランスに行っているうちに屡々「これで本当にいいのかな」という思いで見ておりまして、これでは田舎に住む方が賢明だと思うようになりました。
 そうしているうちにイギリスはとうとう堪忍袋の緒が切れてしまいました。