非核化を進める気がない北朝鮮、米国の仕掛けと日本の備え

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

 北朝鮮は昨年、ミサイル発射を繰り返し、水爆とも評価される核実験までも行った。と同時に、トランプ大統領と金正恩委員長もお互いに非難合戦を行い、米朝間では、軍事的緊張がこれまでにないほど高まった。
 それが、今年になって、南北首脳会談及び米朝首脳会談が実施され、朝鮮半島の非核化や南北融和の雰囲気が出てきた。金正恩は、トランプとの会談で、「(米朝関係で)ここまで事態が進展したことはなかった」「米国の大統領を信頼することもなかった」と述べた。ここ2年だけを見ると、この動きは大変電撃的に見える。
 だが、北朝鮮の核ミサイルの開発に起因する米朝交渉を、長期スパンで眺めると、1994年と2007年、過去2回の合意が得られた時の「北朝鮮が核を放棄することへの期待」を持った時と、概ね変わらない。2つの合意の前には必ず北朝鮮による「瀬戸際外交」と呼ばれた「極限の危機演出」があった。戦争になるかも知れないほどの極限の危機の後に、話し合いが行われる。すると、政府関係者や一般大衆は、何故かホッとして、「将来訪れるかもしれない平和」に期待し、そのうちに、「平和が訪れる」(実は、そうではないのだが)と思い込み、北朝鮮の要求を呑んでしまう。極めて特異な現象と言えるだろう。
 北朝鮮はその特異な現象を効果的に利用するのが上手い。なにせ、それぞれの交渉は約10年の期間を置いて行われるので、北朝鮮の戦略を分析する情報専門家でない限り、10年前の北朝鮮の交渉戦術を忘れてしまっている。北朝鮮のしたたかな交渉戦術を熟知していない交渉担当者は、北朝鮮の担当者を信じて、容易に騙されてしまうのだ。
 だが、今回は3回目の米朝間交渉でもあるので、米国は騙されないように意識し、過去の交渉の教訓を参考に交渉戦略を立ててきている。特に、北朝鮮が実質的に核ミサイルを放棄するまでは、「要求に応じない」、「制裁を継続する」姿勢を採っている。一方、北朝鮮は、「もう騙されないぞ」という思いで準備万端の米国を再び騙すために、特に、金正恩の笑顔や言葉のトリックなどの罠のレベルを上げている。朝鮮半島から米軍を撤退させること、米軍からの奇襲攻撃を受けないように、南北融和カード、対中依存カード、米兵遺骨返還カードまでも利用している。
 とは言え、トランプは今のところ、「金正恩が私よりも非核化をしたいのだと思う」とインタビューで述べているように、金正恩本人との交渉だから、「期待できる」と思っているようだ。