宇宙利用の不安定要因と国際連携の必要性
―サイバーセキュリティは中心的な課題―

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日本宇宙安全保障研究所理事・防衛技術協会顧問 渡辺秀明

序論:宇宙における新しい潮流(衛星コンステレーション)
 宇宙利用に関して、世界各国の防衛当局は偵察衛星を始め、様々な取り組みを推進してきた。しかし、最近、米国を中心とする多くの企業は、宇宙に対する関心を急速に高め、情報通信やリモートセンシングに関する企業は勿論、これまで宇宙に縁がなかった一部の金融機関等までもが宇宙ビジネスへ参入する動きがでてきている。日本においても、「ニュースペース」と呼ばれるベンチャー企業が数多く誕生している。こうした宇宙ビジネス興隆の背景として、新しい技術「コンステレーション」の登場が大きい要因と考えられる。日本を含め、幾つかの企業は「コンステレーション」と呼ばれる複数(数個から数万個)の衛星を低軌道(Low Earth Orbit:LEO)に投入して、情報通信、リモートセンシングなどに活用する新しいビジネスを展開しつつある。特に、大量の衛星を低軌道上に投入するメガ・コンステレーション(Mega-Constellation)は、大きな注目を集めている。
 メガ・コンステレーションは、巨額の初期投資が必要なハイリスクな事業であるが、Space-XのStarlink、Amazon及びPlanet Labといった企業・事業体が取り組む理由として以下の事柄が挙げられる。
 
(1) 衛星ブロードバンド通信の場合
・ これまでインターネットが恒常的に接続できない地域への常続的なサービスの実施
・ 大容量で低遅延通信の実現が可能となり新しく膨大なインターネットの顧客開発や新しいビジネスが創出できる。
 
(2) 地上観測・監視の場合
・ 地上における特定の地点に関する頻繁な観測・監視
 コンステレーションにより、例えば、各国の石油備蓄タンクの貯蓄状況等を観測し、石油の価格変動を予測することや南シナ海の西沙諸島等における中国の軍事施設の建設状況の頻繁な監視など、様々な画像情報等を提供でき、新しいビジネスが開拓できることが強みである。
 米国国防省も、この低軌道衛星のコンステレーションを新たなミサイル防衛の手段としての活用を本格的に検討している。これは、極超音速ミサイルという新しい脅威に対抗するためである。極超音速ミサイルは、これまでの弾道ミサイルとは異なり、低軌道を複雑な軌道を描いて飛行するため、従来の、宇宙から早期警戒衛星によって初期探知を行い、後は地上または海上のレーダが敵ミサイルを捉え、迎撃する方法では対処困難である。従って、宇宙から敵ミサイルの軌道全体を探知・追尾する必要が生じている。