第3回政策シミュレーションから導き出されたこと
―小野寺氏・岩田氏・武居氏の鼎談―

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鼎談 小野寺五典・岩田清文・武居智久

岩田:まず、昨年のシミュレーションはまだ戦略3文書策定中ということで、政策課題を強調するのが主体でしたが、今年は戦略3文書が出来たことで、その有用性を確認するという趣旨の違いがありました。この点について、総理役としてどのようにお考えでしょうか。
 
 
 
 
小野寺:まず国家安全保障戦略で防衛力整備をする前の昨年のシミュレーションでは、日本として出来ることがあまりない状況の中で、どう考えていくか、寧ろ受身のような状況の対応が行われたと思います。どちらかと言えば、国民の避難や保護が中心にならざるを得なかったと思います。今年は新しい3文書によって防衛力整備が出来た後でのシミュレーションでしたので、当然日本としても反撃能力を持ち、様々な防衛アセットも既にあることを前提でシミュレーションを行いました。そういう意味で今回は日本としての役割がさらに求められる、その中でどう政治的な判断をするかという、かなり難しい判断だったと思います。
 
岩田:まさに新戦略3文書を検証する意味もあり、台湾海峡危機が有事に発展していく3つのシナリオを、武居さん、渡邊剛次郎さん始め多くの方々の協力で作成しました。それぞれのシナリオを通して、総理としてのご判断に難しかった点もあったと思います。1つずつ伺います。1つ目のハイブリッド戦の始まりというシナリオでは、平時からグレーゾーンがある中で、どんどん中国が仕掛けるサイバー攻撃等がありましたし、尖閣諸島の現状維持に対する試みに対して、かなり苦渋の決断もあったと思います。その辺りはいかがでしたでしょうか。
 
 
岩田:最初のシナリオでもう1つ。尖閣諸島の南小島で大規模な現状変更が着手され、警察や海保が対応する中で、海保は被害を受けつつも頑張って対応しました。その辺りで何か悩んだ点はありましたか。
 
武居:シナリオでは、尖閣諸島に大量の中国の漁民が来た後で浚渫船が大量に来て海上保安庁を排除しながら、基地を作り始めた。偶発的な武器の使用がエスカレートし海上保安庁にどんどん被害が発生していく内容でした。
 
小野寺:その時一番悩んだのは、やはり向こうはまだ白い船(海警船)が出ている状況です。しかし、当然ながら既に自衛隊・防衛省が出動せざるを得ない状況になっている。海保は最後まで頑張るということではありましたが、最終的に武力によって我が国の領土が侵害されることになれば、自衛隊が動かざるを得ないが、やはり白い船に灰色の船(海自)がぶつかっていくということになってしまいます。ここも同じくSCでいかに日本の行為が正当であるか、日本が酷いことをされているかということを発信した上で対処するということが大きな課題だったと思います。