台湾海峡危機政策シミュレーションから得られた教訓

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特別顧問・元米国務省日本部長 ケビン・メア

 まず、日本戦略研究フォーラムが「第3回台湾海峡危機政策シミュレーション」(7月15~16日)を準備・開催してくれたことに感謝申し上げたい。米大統領役としてこれに参加できたことは、私にとってとても名誉なことであった。私の横には米国家安全保障担当補佐官役として戦略国際問題研究所(CSIS)日本チェアのジョンストン氏がおり、私のカウンターパートである日本国総理大臣役の小野寺五典氏(元防衛大臣)を始めとする11名の現職国会議員を中心として、それを支える多くの元幹部自衛官や各省庁の元高官たちが集まったのである。台湾海峡及び南西諸島有事で、実際に対応に当たるのは防衛省だけでなく、他の省庁も重要な役割を果たすことになる。そのOBたちの積極的な参加を評価したい。さらに、今回初めて台湾からの参加があったことを高く評価したい。
 日米両政府が現実世界の危機で直面するであろう、意思決定における難しい課題をこの政策シミュレーションは浮彫にした。
 本稿では、そこから得られた教訓について所見を述べてみたい。但し、それは過去40年間日米同盟に関わってきた私の個人的経験として影響を受けていることをご理解いただきたい。
 私の願いは、日米両政府がこのシミュレーションや多くの参加者やオブザーバーたちが他の場所で行ってきた議論などから得られた教訓を、両国の抑止力と同盟の有効性を早急に強化するために利用することである。
 これらは、学術的議論のための抽象的な問題ではなく、現在進行形の急を要する現実の問題であり、日米同盟の防衛能力を最大化するためにも迅速に解決しなければならない。我々は断固としてこれに取り組まなければならない。もし必要であれば、地域における潜在的な脅威、中国の脅しや武力による現状変更の試みを挫かなければならない。また、北朝鮮やロシアからの脅威に対しても静観してはならない。
 
シナリオ
 今回のシミュレーションのシナリオは2027年を想定し、それまでに日本は2023~27年の防衛力整備計画を着実に実行したとの仮定に基づいて実施された。シミュレーションは、どのように台湾海峡危機が展開し得るかについて現実的な大筋を示し、どのシナリオにも信憑性があった。
 それは中国の台湾への破壊的サイバー攻撃、海底ケーブルの切断、偽情報の拡散、中国人「漁民」による尖閣諸島上陸、中国の海警に護衛された浚渫船団の尖閣諸島南小島への襲来と岩礁埋め立て、海洋監視施設建設などの着手といった「ハイブリッド戦」から始まった。