コロナ後のベトナムと日越関係の行方

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 去る7月の初めに約5年ぶりにベトナムを訪れた。コロナ禍で海外旅行もままならず、すっかり足が遠のいてしまったが、一大決心(?)をして、ハノイと中部ダナンへの5泊6日の旅を敢行した。私が大使としてベトナムに在勤したのは10年以上も前のことであるから随分と昔のことになる。その後、何回かベトナムを訪れたが、行くたびに街並みの急速な変貌ぶりに驚かされる。とにかく近代化のペースが速いのである。
 ハノイの中心部にホアンキエム湖という周囲2kmほどのさほど大きくない湖がある。旧市街はその北に隣接している。この湖の周囲には鬱蒼とした木立が生い茂っており、週末には歩行者天国になっていることもあってハノイ市民の格好の憩いの場、散歩コースになっている。私はこの近くに宿をとり、早朝5時半頃にブラブラと散策に出たがすでにジョギングする大勢の人で溢れていた。辻々では30~50人ほどの集団が大音響でエアロビクス・ダンスをしており、けたたましいことこの上ない。大半は小太りのおばさん方で、集団ごとに揃いのユニフォームを着ている。とにかくそのエネルギッシュな光景には圧倒される。
 旧市街に足を踏み入れるとそこにはありとあらゆるゴミが散乱し、露天も立ち並んだ昔ながらの風景が展開する。真夏のハノイは日中はひどく暑くなるので人々は早朝に動く。朝夕のラッシュ時間帯における怒涛のようなバイクの波は相変わらずである。10年前との違いはこれに大量の自動車が加わったこと。交通マナーは期待すべくもなくクラクションが鳴り続けている。私はこうした喧騒と混沌の中に身を置きながらこの国は果たしてどこに向かっているのかと考えた。アジアで4番目に多い1,250万人超のコロナ感染者数(米国のジョン・ホプキンス大学が今年3月10日までに集計した最終調査結果)を出したベトナムだが、その傷跡は同国の政治・経済・社会にどのような形で残っているのだろうか。本稿はベトナム旅行中のそうした漠然とした思索を振り返り、その一端を書き記したものである。
 
コロナ禍の傷跡
 今、ベトナムの観光業は劇的に回復しつつある。それを如実に感じさせてくれたのがベトナム最大の観光地の1つである中部・ホイアンの旧市街を散策している時だった。街路という街路が旅行客で溢れかえり、あたかも満員電車の中を人をかき分けながら歩くような有様で、文字通り「芋を洗う」が如き状況だった。地元の報道でも2023年のベトナム全土の外国人旅行者数は2019年(過去最多の1,800万人を記録)以来の1千万人超となることは確実と予想されている。