新幹線技術の流出は どれほど日本の国益を損失させたのか
―中国の世界覇権に利用された日本の技術力―

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政策提言委員・金沢工業大学客員教授 藤谷昌敏

 中華人民共和国の高速鉄道は、高速化された在来線、高速鉄道用の新線とリニアモーターカーから構成されている。中国では高速列車が2007年から導入され、現在では多くの幹線で高速運転が行われているほか、建設中の高速鉄道用の路線や計画が数多く存在している。国営鉄道会社「中国鉄路」(中国国家鉄路集団有限公司)によると、2021年時点で営業中の鉄道網の総延長は約15万kmで、そのうち約4万kmが高速鉄道となっている。最終的には国内の人口50万人以上の都市を全てHSR(High-speed rail、高速鉄道)で結ぶ計画となっており、2035年までに総延長7万kmを目指している。
 最大のドル箱路線は北京から上海を最速4時間28分で結ぶ京滬高速鉄道(けいここうそくてつどう)で、2019年は年間2.1億人を輸送した。中国の高速鉄道は世界最長で、日本の新幹線(約3,300km)の10倍以上の総延長4万kmを超えている。2021年は2,168km延び、さらに2025年に5万km、2035年に7万kmに延長する計画である。
 一方では、国鉄の債務は6兆元(約117兆円)超と、国内総生産(GDP)比で5%程度に達する。こうした中、中国政府は21年、時速35キロ以上の高速鉄道について、路線開設などには乗客数が年2,500万人を上回る必要があるとする新基準を公表したが、人口が21年をピークに減少に転じる中、鉄道事業はますます厳しさを増しそうだ。
 また、海外にも高速鉄道技術や車両を輸出し、インフラ整備や貿易促進に貢献するとともに、人民元の国際化や政治的・経済的なパートナーシップの構築を図っている。中国は、アジア、ヨーロッパ、アフリカなどの地域で高速鉄道の建設や運営に関与している。これらの地域では、交通インフラの不足や老朽化が課題となっており、中国の高速鉄道は旅客輸送や物流の効率化、安全性の向上に寄与すると期待されている。さらに中国との経済協力や技術移転による発展や雇用創出も見込まれている。
 中国の高速鉄道を語る時、忘れてならないのが日本との関係である。元々、高速鉄道技術は、日本が開発したものであり、中国は日本の新幹線技術を盗用し、それを「独自開発」としてアメリカやアジアなどに高速鉄道計画の売り込みをかけていたのである。本来、新幹線技術は、日本国有鉄道(現・JR)が、1964年に東海道新幹線を開業するために開発したもので、新幹線は、従来の鉄道と全く切離して、道路との交差のないものとして設計された。