「有事」対応を進める日本

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政策提言委員・評論家 江崎道朗

  我が国はいま、「有事」に備えて、安全保障政策を大きく、しかも急激に転換しつつある。

 驚くべきことに、戦後日本の安全保障政策の基本は長らく「国連中心主義」と「対米依存」だった。1957(昭和32)年に閣議で決定された「国防の基本方針」は次の4 項目だ。

① 国連の活動を支持し、国際間の協調をはかり、世界平和の実現を期する。

② 民生を安定し、愛国心を高揚し、国家の安全を保障するに必要な基盤を確立する。

③ 国力国情に応じ自衛のため必要な限度において、効率的な防衛力を漸進的に整備する。

④ 外部からの侵略に対しては、将来国連が有効にこれを阻止する機能を果たし得るに至るまでは、米国との安全保障体制を基調としてこれに対処する。

  要はいざとなれば国連と米国に守ってもらおう、と考えてきたわけだ。この国連中心主義と対米依存の防衛方針を大きく変えたのが、安倍晋三元首相だった。そもそも日本には、自国の自由と平和をいかに守るのか、独自の国家戦略がなかった。中長期の国家戦略がないから、

  その場しのぎを繰り返し、いざとなれば米国に従う「半独立国家状態」であったわけだ。

  しかし北朝鮮のミサイル・核開発、中国の軍事的経済的台頭、そして米国の相対的な力の低下という情勢のなかで対米依存だけで我が国を守っていくことができない。そこで第二次安倍政権は2013年、日本独自の国家安全保障戦略を初めて策定した。

  この国家戦略の注目点は3 つだ。

  第1 に、国連に頼ることをやめたことだ。

  第2 に「我が国の能力・役割の強化・拡大」を掲げたことだ。「自分の国は自分で守る」覚悟があってこそ、米国も助けに来てくれるという方針を明確にしたのだ。

  第3 に、米国以外の国とも安全保障協力を強化する方針を打ち出したことだ。この国家戦略を遂行するため特定秘密保護法や平和安保法制を成立させ、豪、英、仏、加、印などと物品役務相互提供協定を締結し、米国以外の国との軍事・情報両面での連携も拡大してきた。英・豪とはいまや準同盟国のような関係で、日本周辺では頻繁にこれら同志国の軍隊との合同演習を行うようになってきている。