頼清徳次期政権の発足に向けて―中台関係、台湾有事と若干の提言―

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上席研究員・皇學館大学准教授 村上政俊

 台湾では本年5 月20 日に新政権が発足予定である。民主進歩党は、1 月13日の台湾総統選挙を勝ち抜いて、台湾民主化後では初めて同一政党による3 期連続での政権担当を決めた。総統には頼清徳副総統が、副総統には蕭美琴前駐米代表(事実上の駐米大使)が、それぞれ就任する予定である。

   本稿では、頼清徳次期政権の発足を踏まえつつ、中台関係、台湾有事について考察する。併せて、我が国が採るべき施策についても若干の提言を試みる。

   筆者は令和5 年夏に、中華経済研究院からの招聘により、客員研究員として在外研究を実施した。同研究院は台湾の政府系シンクタンクであり、経済部(経済産業省に相当)傘下の財団法人である。同年12 月には政治大学国際関係研究センターからの招聘を受けて、「日本の国家安全保障戦略の地域への示唆」と題された研究会で研究報告をした。

   これらの機会を捉えて、外交安全保障の専門家に加えて、行政院副院長(副首相に相当)、閣僚、総統府幹部を始めとする政府高官、立法委員(国会議員)、軍首脳らと意見交換を実施した。本稿は上記で得られた知見に基づき執筆している。

   加えて12 月の台湾訪問期間中には、台湾南部の台南市にも足を延ばした。台南は「台湾の京都」とも称されており、反清復明を目指した鄭成功(国姓爺)の根拠地としても知られている。現在の台湾政治の文脈では、頼清徳の地盤として認知されている。頼氏は立法委員時代の選挙区が台南であり、その後は台南市長を務めていた。

   筆者は台南において、郭國文立法委員の選挙集会を視察する機会に恵まれた。同委員は頼清徳の側近として知られ、近年は日本語を習得するなど、我が国に対する関心を深めている。旧知の郭委員と直接話す機会を得ただけでなく、実際に台湾の有権者の中に交じって、選挙活動を間近で見聞した。数百人規模の集会だったが、年配の参加者が多かったものの、候補者や地元の地方議員ら弁士の呼び掛けに大きな反応を示していた。また壇上では、中国語だけでなく、台湾ローカルの台湾語が多用されていたのも、台湾南部の特徴であり、台湾アイデンティティーの発露と言えよう。