日本のセキュリティ・クリアランス制度と課題―米国のセキュリティ・クリアランス制度を参考にして―

.

政策提言委員・金沢工業大学客員教授 藤谷昌敏

はじめに

  近年、経済環境はますますグローバル化し、経済的な脅威やリスクが多様かつ複雑になっている。この新たな状況に対応するために、国家は経済安全保障を重要な政策として推進し、機密情報を取り扱う専門家に対してはセキュリティ・クリアランスを要求している。本論では、米国のセキュリティ・クリアランス制度を参考にして、日本のセキュリティ・クリアランス制度と課題について考察する。

第1 章 経済安全保障の背景

  各国が経済安全保障に力を入れるようになった背景には、グローバル経済の変化が多岐にわたり、様々な要因が複雑に絡み合っていることがある。以下、主なグローバル経済の変化について、いくつかの側面から概説する。

(1)グローバリゼーション

 「グローバリゼーション」(globalization)とは、社会的或いは経済的な関係が、それまでの国家や地域などの境界を越えて、地球規模に拡大して様々な変化を引き起こす現象のことを言う。グローバル化、世界の一体化ともいう1。現在のグローバリゼーションは、外国直接投資を含む資本の国際的流動の増加、貿易障壁の低下、その他の経済改革、そして多くの場合は移民によって、先進国が発展途上国と統合しつつあることが主な原因となっている。グローバリゼーションが深化する前は、アメリカ合衆国は世界の輸出において不可欠なまでの経済力を保持した覇権国家だった。しかし、グローバリゼーションの到来後、ドイツ、日本、韓国、中国はアメリカの立場に挑戦する重要な競争相手となった2。

  特に20 世紀末から21 世紀初頭にかけて、国境を越えた経済的な相互依存が急速に進み、国と国、企業と企業、人と人の繋がりが深まり、商品やサービス、資本、技術が自由に移動するようになったが、反面、特定の国の一方的な意思や政治目的により、商品や資材などの自由な移動が阻害される現象が起こり、他国の商品の生産が停滞するなどの事態が見られるようになった。