紅海危機にみる海洋地政学の重要性

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研究員 橋本量則

はじめに

 2 月24 日、4 回目となる米英によるイエメン内のフーシ派拠点への空爆が行われた。今回は18ヶ所の拠点を叩いたということだが、これでフーシ派の活動が止むとは米英ともに考えてはいない。米英は事態はよりであるとの認識を示している。これまでの米英のフーシ派拠点への攻撃に関して、西側諸国は一致して支持している。だが、事はそれほど単純ではなさそうである。2 月27 日の英タイムズ紙電子版に、「膠着続く紅海で行方知れずとなる同盟国」という記事が掲載された。その中で、フーシ派に対して空爆を続ける米英に対し、仏独などの欧州の同盟国は直接紅海に艦船を出して協力することに消極的であることが指摘されている。結果として、米英2 カ国が軍事行動の負担を負っているのだという。西側諸国のこれまでの繁栄は、自由で安全な海上交通路に支えられた自由貿易に拠るところが大きいにもかかわらず、紅海という欧州とインド太平洋を繋ぐ世界有数の海上交通のチョークポイントを守ることに関して、西側諸国の間に生じているこの温度差は一体何を意味するのか。

 本稿はこれについて地政学的な見地から考察する。

大陸勢力vs 海洋勢力

 まず、地政学の中で最も基本的で単純であるが、同時に最も重要な考え方について触れておきたい。それは、「大陸勢力vs 海洋勢力」の構図である。国家の行動とは、それが大陸国家であるのか、それとも海洋国家であるのかで大きく異なってくる。その国が置かれた地理的条件が異なれば自ずと行動にも違いが生ずることは当然と言えば当然であるが、これを抜きにして、現在進行中のウクライナ戦争を含む国際情勢を説明しようとしても十分に説明できるものではない。

 ロシアのような大陸国家は、大陸型地政学の祖と呼ばれるドイツ人地政学者カール・ハウスホーファーが提唱した「統合地域論」の未だ影響下にあると考えるのが妥当である。「統合地域論」とは、世界を4 つの地域に分け、地域の盟主国がその地域を統治するという極め大雑把な考え方であるが、同時にシンプルであり、大陸国家の指導者たちにとっては、これを下敷にすれば戦略を考えやすくかった。「統合地域論」では、世界は「ユーロ・アフリカ」「パン・ロシア」「パン・アジア」「パン・アメリカ」の4 つの地域に分割される。