我が国を取り巻く核に関わる状況は、米ソ間で核の「相互確証破壊(MAD)」状態が認識され、戦略レベルにおいて抑止が機能していた冷戦期とは全く異なる構造の下で、より複雑かつ厳しい状況となっている。このため、我が国として米国による核の拡大抑止の実効性を担保することが待ったなしの課題であるにも拘わらず、正面から取り組もうとする政治的動きは全く見られない。この差し迫った問題から目を背け、解決を先送りし続ける姿勢からは、核の使用や威嚇を絶対に許さず、その脅威から国民を守り抜くという政治の強い信念や覚悟が感じられない。
核兵器の増強を続ける中国は、米露に匹敵する核大国になりつつあり、いずれ米露中の三極構造となる。三者間で核抑止を機能させる経験も理論もない未知の領域に足を踏み入れることになる。北朝鮮やイランは、米国に到達し得る長射程の弾道ミサイルを手にするとともに、既存の弾道ミサイル防衛システムでは対処不可能な極超音速滑空弾等の能力も手に入れつつある。戦略レベルと戦域レベルの抑止関係が単純に切り分けられなくなっており、米国による核の拡大抑止の実効性が強く懸念される状況となっている。