はじめに
 2025年版防衛白書には、日本の安全保障環境として次のような記述がある。「戦後最大の試練の時を迎え、新たな危機の時代に突入しつつある」。筆者の記憶する限り日本政府が示した最も厳しい情勢認識である。
 ウクライナ戦争は3年経過しても未だ出口が見えず、中東ではイラン・イスラエル戦争が停戦中とは言え、火種が燻る。今後のイランの核開発動向によっては、一気に再燃する可能性がある。台湾海峡については、習近平中国国家主席の指示により、2027年までに台湾武力併合が可能になるよう人民解放軍が着々と準備を整えている。朝鮮半島では金正恩北朝鮮労働党総書記が南北の平和的統一政策を捨て、韓国を敵国と規定した。
 これらの事象は単独ではなく相互に関連し合っている。ウクライナ戦争には北朝鮮軍が派遣され、北朝鮮は見返りに軍事技術支援を受け、朝鮮半島に新たな緊張をもたらしている。イラン・イスラエル戦争では米国がイスラエル側を全面支援しており、紛争が再燃すれば、世界各地の米軍戦力が投入されるだろう。