平川祐弘の素晴らしき遠回りの旅
『一比較文学者の自伝』書評

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首都大学東京名誉教授 鄭 大均

 日本人の土着信仰である神道に対してであれ、加害者性ばかりが強調される朝鮮統治に対してであれ、世界には日本に対する偏見や誤解が多々あり、それはしばしばレイシズムと繋がりを持つものである。
 そんな偏見や誤解には、それに対する反論を英語論文で記し、また説得力ある英語スピーチでそれを批判すれば、状況はかなり改善されるはずである。だが、それができる日本人が極めて少ない。日本の知識人には他国の人間と英語で論じあい、議論の応酬を愉しむことのできる人間がほとんどいないのだ。
 とはいえまったく不在というわけではない。本書『一比較文学者の自伝』の著者である平川祐弘はそのような例外的日本人で、日本のみならず海外でも多くの活動を続けてきた比較文化史家であるが、では彼はいかにしてそんな人間たりえたのだろうかと私のような人間は思う。