はじめに
近年、日本でも「経済安全保障」という言葉が定着し、石油・天然ガスなどのエネルギー、半導体、レアアースをはじめとする重要鉱物の安定確保について活発な議論が行われるようになった。しかし、国民生活の基盤である食料の安全保障については、その重要性に比して十分な関心が払われているとは言い難い。
食料は、エネルギーや重要鉱物と同様、ひとたび供給が途絶すれば国民生活と国家の安定に直接影響する。それにも拘わらず、平時には市場で購入できることが当然視され、生産地から日本の食卓までの供給経路全体を安全保障の観点から検討する議論は弱い。
その危うさを示したのが、2024年から2025年にかけてのコメをめぐる混乱であった。コメは日本の主要食料の中でも例外的に自給率が高く、政府備蓄制度も存在するにも拘わらず、供給不足と価格上昇が発生し、国民生活に多大な影響を及ぼした。
国内でほぼ賄える主食でさえ、需給の把握、流通、政策対応によって安定供給が揺らぎ得る。まして大豆、トウモロコシ、小麦など海外依存度の高い食料について、必要になれば輸入を増やせば事足りる、と考えることはできない。
南米は世界有数の食料供給地域であり、日本が今後、食料調達先を多様化する上で重要性を増す可能性が高い。他方、中国は南米において農産物を大量に購入するだけでなく、港湾、穀物の集荷・加工・物流、通信など経済活動を支える基盤への関与を拡大している。