第164回
『令和4年度版防衛白書』説明会

長野禮子
 
 今年も防衛省から石川武氏をお招きし、7月に公表された「令和4年版防衛白書」の説明会を行った。今回の「防衛白書」は、昨今の中国の動向と台湾情勢の分析という2つが目玉となっている。中国の全般的な評価は昨年と比べて大きな変化はなく、「透明性を欠いたまま、継続的に高い水準で国防費を増加させ」ているという認識は変わらないが、4年版では「軍民融合」という言葉が登場している。中国は、軍事資源と民間資源を双方向で結合することを目指し、民間の「将来の戦闘様相を一変させる技術、ゲーム・チェンジャー技術」を軍事に取り込んで融合しようと、先進的な研究を行っている。中国はこれを「智能化戦争」と呼んでいる。
 中国の軍事目標についても注目すべきことが語られた。中国の軍事目標は15年毎に設定されており、2020年「機械化・情報化建設の重大な進展」、2035年「国防と軍隊の近代化の基本的実現」、2050年「世界一流の軍隊」とされてきたが、さらに2027年「奮闘目標の実現を確保」という目標が加わっているという。人民解放軍の建軍は1927年であり、2027年は100年に当たる。習近平主席のこの「建軍100年の奮闘目標」は、「台湾の武力統一」であるとする見方もある。実際、それを実行するかはその時の政治判断次第だが、少なくとも軍に対してこれを達成できる水準まで強化しておくことを求めていると考えられる。さらに2027年は習主席の3期目の最後の年でもある。2027年は日本にとっても次の「中期防衛力整備計画」の最終年度に当たる重要な年であり、日本もこの年を目標に、中国に対する抑止力を念頭に置きながら防衛力を整備していかなくてはならない。
 米国も同様、昨年デービッドソン前インド太平洋軍司令官が上院の公聴会で「6年以内にこの地域が重要な局面になる」と語った。
 国防費として、中国は日本の8~10倍の予算を投じており、日本はその環境の中で中国抑止のための防衛力を整備していかなければならない。たとえ日米同盟があっても、国防費が10対1の状況では厳しく、防衛費の増額は必至である。
 中国の海上・航空戦力を見ると、90年代までは明らかに日本が質では上であったが、現在は質は同じで、量は中国が4倍となっており、能力としては中国が日本の4倍になる。空母について中国は米国に追いつけ追い越せで開発を続けており、技術的な問題は残るが最新式の空母「福建」には電磁カタパルトが搭載されている。
 また、中国は核戦力の近代化も継続している。陸上から発射するICBMは米国まで届くが、潜水艦から発射するSLBMはまだ届かない。だが、現在開発中のものが完成すれば、南シナ海から全米を射程に入れることが可能となり、完全な核抑止力を手に入れることができる。また、極超音速滑空兵器(HGV)も開発、配備されている。
 既に米中関係は軍事的分野の競争を越え、技術、経済の分野での競争にもなっている。中国は強国への道を辿ると同時に、中国の秩序をもってし、その結果、現在、世界経済がブロック化の方向に向かっていると言われている。それに対抗するには、軍事力だけでなく貿易、サイバー、技術、経済の分野での安全保障を強固なものにし、技術漏洩を防がなければならない。
 もう1つの目玉の「台湾」については、昨年の記述から倍増した。米中競争の場となる、最大の部分が台湾になると考えられるからだが、地政学的には日本も巻き込まれていく。
 中台の軍事バランスを見ると、年々中国が優位性を増しており、現在、中国の国防費は台湾の17倍。第4世代戦闘機や新型駆逐艦・フリゲートの保有数では、中国がそれぞれ4倍、3倍になっている。また、台湾を射程に入れる中国の短距離弾道ミサイルは2016年時点で1,200発あり、現在はそれより増加していると考えられる。
 これに対し台湾は弾道ミサイルは持っていないが、巡行ミサイルを開発している。大きな抑止力にはなっていないが、射程の長いものも開発中であるという。米国はトランプ政権以降、台湾へ近代的兵器の売却や敵基地攻撃的なものも増やしており、HIMARSや空対地巡行ミサイルなども含まれる。トランプ政権以降、米国も大きく変わった。
 8月上旬のペロシ下院議長の訪台以降、中国は台湾海峡の「中間線」を越えて戦闘機を侵入させることを常態化し、台湾への挑発、威圧の度合いを強めようとしている。だが、8月に台湾周辺に撃ち込んだミサイルは最新鋭のミサイルではなく、中国なりのメッセージと見られるとしている。
テーマ: 『令和4年度版防衛白書』説明会
講 師: 石川 武 氏(防衛省大臣官房政策立案総括審議官)
日 時: 令和4年9月8日(木)14:00~16:00
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