第165回
「10月に発令された米国の対中半導体制裁とわが国経済界への影響」

長野禮子
 
 今回は、経済安全保障に詳しい平井宏治氏をお招きし、中国の軍民融合政策とそれへの米国の対抗措置について、以下のようなお話を伺った。
 現在、中国は軍民融合政策を掲げ、力による国際秩序の変更を推し進めている。産業政策である「中国製造2049」では、中華人民共和国建国100周年の2049年までに世界最強の製造強国となると公言している。これは、米軍を打倒できる科学技術を得ることを意味しており、それには民間企業を通じて外国の技術を取得することが戦略として必要となる。そうして中国が2049年までに米国に取って代わろうという10分野は、次の通りである。①次世代情報通信技術、②先端デジタル制御工作機械とロボット、③航空・宇宙設備、④海洋建設機械・ハイテク船舶、⑤先進軌道交通設備、⑥省エネ・新エネルギー自動車、⑦電力設備、⑧農薬用機械設備、⑨新材料、⑩バイオ医薬・高性能医療器械。
 これに対し、米国は半導体規制を強化してきている。コンピュータやスマホはもとより、ハイテク兵器、自動車、飛行機等も半導体なしでは機能せず、中国は高度なプロセッサとメモリチップなどを外国に依存している。高性能半導体は中露では作れない。一方、米国は半導体供給網の中で最も重要な部分を押さえ、先端半導体の設計大手、半導体製造ソフトウェア、装置製造大手の多くが米企業である。日本は、半導体材料の分野で世界的な強みを持っているが、米国の規制拡大の影響を受けること必至である。
 AIは軍事技術を発展させる軍民両用技術であるが、米国政府はどの企業の半導体が中国の軍事関連のAIシステムに導入されているかを把握しており、規制を強化している。また、輸出規制だけでなく、中国による半導体関連企業の買収の阻止も米国は西側諸国に働きかけてきる。
 米政府は、中国企業を米国資本市場から排除する方針で、米公開会社会計監査委員会の監査基準に基づく監査に対する検査を3年連続して実施できない場合、または、外国政府の所有・管理下、中国共産党の影響下にないことの立証義務が果たせない場合、米証券取引所で上場廃止となる。
 米国商務省産業安全保障局(BIS)は10月7日、中国を念頭に半導体関連製品(物品・技術・ソフトウエア)の輸出管理規則を強化する暫定最終規則を公表したが、これは1994年のココム解散以来の最大の制裁となり、先端半導体やスパコンを開発製造する企業については、純粋民生用途でも禁輸対象とされる。このような規制は、米政府内で、先端集積回路、スパコン、半導体製造装置などが大量破壊兵器の開発を含む軍の現代化及び人権侵害に与える影響を検証した結果の措置で、これらの先端技術が中国に移転され、人民解放軍の増強に転用されるのを防ぐという目的が背景にある。これにより、中国によるAIと5G通信の開発が困難になった。
 バイデン米大統領が8月9日に署名したCHIPS法により、米半導体業界には今後5年間で527億ドルが提供されるが、同時に、同法は中国の半導体工場が先端半導体を開発・製造しているか分からない場合、半導体等のエレクトロニクス分野の試験装置・検査装置・製造装置、材料、ソフトウェア、技術の輸出を原則不許可とした。
 これらの米国による半導体規制は、最先端の米国製技術を中国に渡さないことが目的であり、その規制の網は当然、日本、台湾、韓国等の企業にもかけられる。制裁対象のリストであるEntity Listには中国の28企業・大学が、その予備軍としてのUnverified Listには31企業・大学が指定されており、これらの企業・大学と関係のある外国の企業・大学も当然規制対象となる。
 これらのリストに載る中国の企業・大学と取引のある日本の企業・大学は多く、日本への影響は大きい。特に、従来規制されてこなかった純粋な民生エンドユースも規制されることになったことで、規制対象の中国企業と取引のある日本企業のサプライチェーンが崩壊する可能性もある。日本企業は半導体のサプライチェーンを早急に見直さなければならない。さもないと米政府から厳しいペナルティを科せられる恐れがある。
 これに対して、中国は対抗措置を採ると明言し、米国による520億ドル(約7兆8,000億円)の半導体生産への補助を問題視している。だが、現状では、中国の半導体産業は国内需要10~15%程度しか供給できず、中国も国内半導体の産業の育成のため、2030年までに1,500億ドル(約22兆円)の補助金を拠出する方針である。中でもファーウェイ1社で補助金額は8兆2,400億円に上るという。
 米中の半導体を巡る競争の中で、米連邦議会とバイデン政権は着々と規制を強化しつつある。日本政府、企業には、米国に歩調を合わせ、我が国経済界への影響を最小限に留めるべく、検討を期待したいものである。
テーマ: 「10月に発令された米国の対中半導体制裁とわが国経済界への影響」
講 師: 平井 宏治 氏(㈱アシスト代表取締役)
日 時: 令和4年11月16日(水)14:00~16:00
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