第179回
ロシア・ウクライナ戦争の行方

 
 本日はロシアの内政・外交に詳しい名越建郎氏をお招きし、今後のロシア・ウクライナ戦争の行方について、お話いただいた。以下4つの点について簡単に記す。
 
(要点抜粋)
・モスクワ大型テロ(2024年3月22日)
 
 プーチンが大統領選挙で圧勝した3月17日。その5日後にテロが起きた。今回のテロはロシアで今世紀初めに頻発していたテロとは性質が全然違っていた。かつての主流だった自爆テロと違い、今回のテロでは犯人は最初から金で雇われており、逃亡を考えていた。
 
 ロシアの情報機関は反体制派や反戦グループの摘発に関してはプロだが、テロ対策には非常な不備があった。今回、テロを実行したIS-K(イスラム国ホラサン州)はSNSでプーチン政権を「イスラム教徒を弾圧している」と厳しく批判しており、テロの予兆を掴んだアメリカはロシアに事前通報していたが、プーチンはアメリカへの敵愾心・猜疑心から「アメリカによる挑発」として通報を無視した。IS-Kには、若者の人口が多いが仕事が無い中央アジアからの参加者も多い。また、ロシア国内でのイスラム教徒の増加も背景にあり、女性1人あたり4人の子供を産むためにロシア人との人口比率が逆転しつつある。プーチン曰く、犯行の背後でウクライナの情報機関が資金を提供し、犯人の逃走を手助けしたとして、ウクライナを批判している。また、フランスのマクロン大統領は次のテロの標的は7月に五輪を控えたパリになる可能性があると言っている。日本でのテロの可能性は低いが、ヨーロッパは要注意だ。
 
・プーチン5期目の動向
 プーチン政権はあと少しで在任30年の長期支配になり、20世紀以降、スターリンを抜いて最長在位のロシア指導者になる。ロシアは長期政権になると政治的な成果を重視する。プーチンが尊敬しているピョートル大帝・エカテリーナ女帝の時代には非常に戦争に強く、ロシアの領土が広がり、近代化が進んだ。プーチン政権も2030年代まで領土的な野心が続くと思う。
 
・岸田総理の外遊
 岸田総理は米国公式訪問(4/10)、フランス訪問(5/2-3、OECD閣僚理事会出席)、NATO首脳会議出席(7/9-11)など外遊が相次いでおり、外交で内政の現状を打破しようとしている。今のままでは次期総裁選で下野も考えられるが、ただし、外交成果は支持率回復には繋がりにくい。拉致被害者奪還くらいの成果があれば話は別と言える。
 
・ロシア・ウクライナ戦争の行方
 現在の弾薬投入量の差はウクライナ1: ロシア5であり、一時、米の9兆円ウクライナ軍事援助法案が凍結された事もあり、ウクライナ側の苦戦が報じられている。ロシアは一方で中国・北朝鮮との関係を強化しており、5月にはプーチンの中国訪問が予定されており、弾薬や軍服の供給を受けている北朝鮮への訪問もありえると噂されている。ただし、北製の弾薬は発射した途端に爆発するなど粗悪品も多く、軍需に完全依存している現在のロシア経済は戦争終結後の反動に耐えられないという見方も強い。
 
 日本を含めた西側諸国で、軍民両用(デュアルユース)技術や先端技術の軍事活用が謳われている中、そもそも粗悪品の弾薬すら外国に依存し、国内に西側レベルの先端産業を持たないロシアの勝利は無理筋なのかもしれない。
 
テーマ: ロシア・ウクライナ戦争の行方
講 師: 名越建郎氏(JFSS政策提言委員/拓殖大学大学院特任教授)
日 時: 令和6年4月5日(金)14:00~16:00
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