第142回
「毅然とした国家であるために」
―日米同盟と対中政策―

長野禮子 
 
 昨今の新型コロナウイルス危機の中、欧米、特に米国のプレゼンスに陰りが見えつつある一方で、中国は強硬な対外姿勢を崩す素振りすら見せていない。このような国際情勢の下、今回は元防衛副大臣の長島昭久氏と前統合幕僚長の河野克俊氏の両氏に、現在我が国が直面する安全保障問題について対談して頂いた。 
 6月15日、河野防衛相はイージス・アショア断念を発表した。近年の北朝鮮による弾道ミサイル発射には、同時発射能力・奇襲攻撃能力を強化し、更に、弾道ミサイルに搭載する核兵器の小型化も実現しているとみられることから、我が国への「脅威」と位置付け、『令和2年度版防衛白書』に記されている。この「脅威」が依然続く中で、両氏はイージス・アショア代替案を早急に議論する必要性を説き、日本の過去の防衛戦略との整合性を取りつつ、日米同盟を基盤に拡大抑止の議論を展開すべきだと述べた。
 また長島氏は、現行憲法の精神に則り、専守防衛は維持するものの、反撃能力の保有が相手側の攻撃を踏み止まらせる抑止力に繋がるという論理を展開。国民からの理解も得られるのではないかと語った。
 ただ、侵略を受けたのちの対応や保有装備も必要最小限にしなくてはならないという見方が一部にあるが、このような考えで自衛隊の行動を日本人自らが縛り付けるようなことは避けるべきだとし、長島氏は改めて専守防衛の持つ意味の再定義、再確定が必要であると訴え、河野氏も憲法改正を含めた議論の重要性を説いた。
 両氏は、数年前までの米国では官民ともにロシアへの警戒感が強かったが、現在は米中新冷戦とも言われる厳しい状況と、コロナ禍による国民生活への深刻な影響もあり、中国に対する強い懸念が広まっているという認識を改めて示すとともに、長島氏は「米政界では超党派のコンセンサスも形成されている。今秋の大統領選挙で民主党への政権交代となったとしても、米国の対中認識及び対中政策に大きな変化はない」とした。
 一方で、尖閣諸島問題に直面している日本国民は、果たして米国民のようなマインドを持っているのかと懸念が残る。
 河野氏はまた、中国が経済成長とともに海軍力増強を重視している点を指摘し、香港、台湾、そして尖閣諸島に対する野心に警鐘を鳴らし、長島氏は、米国が南シナ海での中国の領有権主張を否定した件に触れ、この動きを尖閣諸島まで広げるよう米国に働きかけることや、安全保障上、共有する台湾との連携・調整も可能であろうと話す。
 上述のように今回は長島・河野両氏の活発な議論が行われ、終了後の雑談の中でも、尖閣諸島に中国が大船団を組んで押し寄せた場合、また台風などで上陸せざるを得なくなった場合の日本政府の対応はどのようなものか。コロナ禍における経験で見直される中国とのデカップリングに関する日米の現状や、コロナ対応で成果を挙げた台湾のプレゼンス向上への協力を日米で積極的に行うべきではないかとの意見交換が行われた。
(収録:衆議院議員会館於)
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、通常の開催を避け、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「毅然とした国家であるために」
―日米同盟と対中政策―
講 師: 長島 昭久 氏(JFSS政策提言委員・元防衛副大臣)
講 師: 河野 克俊氏 氏(JFSS顧問・前統合幕僚長)
日 時: 令和2年8月4日(火)14:30~15:30
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