第15回 平和安全法制研究会 報告概要

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お知らせ JFSS事務局

日 時:平成30年11月21日
報告者:吉田正紀 氏(双日米国副社長(元海将))



<報告の要点>
 ○ 前言
  • 陸海空の自衛隊創設から自衛隊は環境に順応しながら戦ってきた。このことを示すために渡部悦和元陸将、廣中雅之元空将と書き上げたのが、“The US-Japan Alliance and Roles of the Japan Self-Defense Forces, Past Present and Future”(SPF-USA)。アメリカでも自衛隊が何をやってきたかということについて理解されていない。

 ○ 冷戦期の海上自衛隊
  • 冷戦期は米軍と一体であり、米ソ勢力が均衡化するなか米海軍の戦略に基づき、海上自衛隊は対潜・掃海能力を強化して補完するようにした。「あえていびつな海軍力」を目指したともいわれたこの時代、米の空母打撃力と日本のASWが役割分担であり、国際協力というものはない。これは今も重要であり、海上自衛隊は国際平和協力のために出したことはない。日米同盟のためにしか出してない。

 ○ 冷戦後の海上自衛隊
  • 軍事力の役割が安定化に使われるなかではじめて輸送艦「おおすみ」を被災地支援に使った。また、ロシア・韓国・中国との交流を開始し、北朝鮮不審船対応を行った。シーレーンに沿って海自の活動を展開したが、念頭にあるのは日米同盟が基本である。日本はイージス艦を含めハイエンドの装備を導入していたが、冷戦終了とともに「遊び場」が移ってしまった。湾岸戦争では法律がないためにアメリカについていけず「同盟漂流」といった議論もあった。海自の乗り越えなければならない2つの戦後として、海保との関係、商船関係者との関係がある。海賊対処ではこれらがだいぶ解消された。

 ○ 海上自衛隊の思い
  • 海上自衛隊には、米海軍と共にという思いと、旧海軍に戻りたいという思い、この2つが常に交錯している。海上自衛隊は地域でグラデーションをつけていくというのが基本的な考え方である。米国に対しては、海上自衛隊はリンチピンまたは同盟のバックルという位置づけで自らの存在意義を示してきた。“international contribution“には大反対だったが、その中に国益があるときはそのように言って実利を確保してきた。海上自衛隊はやれるのであればやるけれども、国際協力は基本マインドにはないということを認識してもらいたい。

 ○ クレピネビッチの理論
  • クレピネビッチのユーラシア戦略が現在の(日本の)戦略の原型となっている。
  • 3つのエリアに分けており、①欧州に対するロシアの再興 ②西太平洋での中国の台頭と北朝鮮脅威 ③地域不安定化要素としてのイランの3形態である。
  • 一番重要で脆弱なのが西太平洋で、リソースは全てここに注ぎ込めというもの。ひたひたつけてくる中国が危ない。「このエリアでは列島線防衛が重要。陸自はPKOを終了し、海自は海賊対処という任務を終了し、冷戦時代に回帰するべき」と本人は言っている。冷戦期に似ているので日本は経験値があり、日本の戦略的方向性とマッチしている。

 ○ 海上自衛隊の未来
  • 国際平和協力は戦略的な整合性が必要である。PKOをやるのであれば戦略的な地域優先を考えて、キャパビルなり共同訓練を通じたプレゼンスを確保する。国際平和協力という名のもとにプレゼンスを示していく。中国を刺激しないように、しかしながら兵力を動かす。積極的平和主義という戦略の下、海自はプレゼンスをやる船、国際貢献をやる船が必要。軽武装で長く走れる30DD(平成30年度建造予定の新型多機能護衛艦)の導入は戦略に合致している。

 ○ 練度維持の効率性
  • 2050年の一番危ない時期に勝てるよう、日常戦場の演練が求められる。精強さを前提とすると訓練を通じたwar-fightingの練度維持が最も重要となる。国際任務を通じての練度維持は効率が悪い。中国が覇権に向けた動きを醸し出すなか、日本は同盟の近代化と少子高齢化の2つの問題がある。海自は2040年に3万人で動かせるようにしようとしている。その中でPKOをどこまでやるか。本当に優先順位を付ければ、先ずは訓練である。
  • 国際平和協力をするためにジブチにいるのであれば、米軍と共同訓練をして戦闘能力を伸ばすべきである。国際平和協力は部隊を出すというものよりも、キャパビルなど別のやり方がいい。安保法制で米艦防護も含めていろいろできるようになってきており、それをフルに利用する。国際平和協力を通じて練度を上げるのであれば、目的は何か。国家の必要としているものを付与するのが訓練であり、PKOでやる必要はない。今は法制ができたのでPKOでどう付加価値を付けていくのかを堂々と議論すべきである。

 ○ 海賊対処行動と日米同盟
  • 海賊対処行動のように環境の変化に伴い国益が変わってくるものもある。ジブチに関して今はプレゼンスの方が大きいかもしれず、海上自衛隊が米軍・フランスといることに意味があるようになってきた。CTF151も一定の練度を確保できたため、隻数を減らして多国籍軍の指揮能力を高めるように考え方を変えた。但し、現場を抱えての考え方と政策判断は別ものである。専門の部隊をつくるという議論もあった。
  • いずれにしても練度維持、war-fighting-capabilityをいかに高いレベルで維持するかという問題となる。CTF151に1隻残しているというということは中国の進出を踏まえて、今後のインド洋西南海域での活動の必要性も意識してのことかもしれない。

 ○ リソース配分
  • この人数だと、恐らくこれ以上隻数は増やせないくらい、リソースは厳しい。これからは、無人とAI を通じた省人化。南シナ海においてはどの国も情報優位がない。日本から情報収集するにしても運用や投資効率的に割があわないので、無人機のサーベイランスを使うことも一案である。例えば、マラッカのReCAPのような地域の海洋状況把握のための国際機構を置いてODAで施設をつくりキャパビルをする。飛行機の運用は米太平洋軍のMaritime Security Initiativeと併せて情報をどんどん提供していく。原則としては中国にも、ということにする。そうすればリソースの問題が解決できる。これまでのしがらみにとらわれずに、自衛隊にしかできないことにリソースを集中していくべきである。

 ○ 安全保障と国土保全
  • こればっかりは人がやらなくてはならない。人が入ってこない前提に基づいて、自衛隊でしかできないこと、つまり戦闘以外は全て民間に出していくことも考えるべき。2050年までに精強性と人的リソースのバランス保つことができれば、そのモデルは外国に輸出できる。今度はそういったシステムを輸出する。

 ○ 国際平和協力における省人化
  • 無人機のできることは無人機にやらせるべきであるが、国際平和協力は代替が難しい。地元の人と接していくという必要性があるというのであれば、民間なり他にも移せるという発想で、本当に自衛隊でなければならないかということは考える必要がある。どうやって今の環境に適応していくかは大事だ。サーベイランスなどは最近では衛星も使えていいものがある。判断をするのはノウハウが必要なので、そういう人を付けていく。自衛隊が認められている分野は民間や無人化・省人化もできるものが多い。

 ○ これからの自衛隊の活動
  • 自衛隊が何をやるかは、ある程度やりながらあまり危険な場所には行かないでやっていく。陸海空のそれぞれの特性を活かしながらやっていく。

 ○ 提言に盛り込むべき事項(研究員)
  • ① 対外的に自衛隊が果たしてきた役割を適時適切に発信すること。
  • ② 国際平和協力の戦略の確立と各自衛隊の役割の明確化
  •   特に戦闘遂行能力の練度維持と国際任務を通じた練度維持
  • ③ 「無人、省人、老人、婦人」の活用の検討、人材の育成