外資が狙う日本の国土と水源林
(2)何故日本が狙われるのか
 
農学博士  渡邉 巌

 日本が狙われる要因は色々あるが、これらの諸要因の根底にある共通項は「政治家と行政官の問題先送り体質」であると言える。今なんとかしないと近い将来大変なことになることを十分承知していながら、問題を見て見ぬふりをしている。そのうちその件に責任のない役職に移れるのを待つ、怠惰で汚れた精神である。年金問題、憲法改正問題、強すぎるプライバシー擁護、公益を無視した権利の狂乱などに代表される重大な問題である。海外資本には百戦錬磨の弁護士がつく可能性が強く、後追いで作られた法規制が無効であることを理由に、国土のあちらこちらが海外資本に浸食されるという将来はなんとしても避けたいものである。この焦りが私にこの文章を書かせた。

 1) 外国資本に土地が買われた/買われようとした具体例
 a) 奈良県境に近い三重県大台町:08年1月頃に中国企業関係者が訪れて「立木と土地を買いたい」と、その周
 辺一帯の私有地1000ha(ほぼ中禅寺湖の広さ)の買収を仲介して欲しいと町にもちかけたが断った。(09・5・13
 
付産経)
 b) 08年6月、長野県天竜村:「知り合いの中国人が緑資源を買いたがっている」「今の市場価格の10倍を出す」
 と言うも、村は断った。(09・5・13付産経)
 c) 千葉県内ゴルフ場4500haを外資が買収、ゴルフ場31ヶ所分で山手線の内側面積の8割に相当。
 d) 長崎県五島市福江島:上海の富裕層「子孫に財を残すために欲しい、上海では土地の利用権のみは買える
 が、日本では所有権も認められており魅力的である」
 e) 奄美大島加計呂麻島、対馬、隠岐の島など韓国資本や中国資本が接近
 f) 11年11月、道北奥地の天然林200ha(ほぼ昭和記念公園の広さ)不動産業者が現地を訪れた。この業者は道央
 の山を中国資本に売却した実績あり。
 g) ダーレー・ジャパン(競走馬のブリーダー ドバイの日本現地法人):1000ha(中禅寺湖の広さ)北海道日
 高地方を中心に経営不振の牧場を買収。道南に1100haを購入、将来は3000haにしたい。
 h) 長野県南木曽町:木曽ヒノキ20万m3 欲しいので仲介して欲しい

 2)何故今の日本国土が外国資本に狙われているのか
 a) 法的規制がない
  民有地を外国人に売ってもよろしいなどという地球市民的な法規があるはずはない。現在のようなグローバル時代になっても、政治家や官僚がきちんと世の中の変化に対応しないから、その法整備の間隙をぬって外国資本が「これはしめしめ」と乗り込む。政治家や官僚のさぼりの結果である。こんな輩に月々の高いお手当を払う必要はない。寧ろ罰金をかけたいくらいだ。当たり前のことだが、諸外国では外国人の土地所有は認められていないか、制限付きである。例えば

 所有を認めない国々:
  中国、ヴェトナム、インドネシア、ミャンマー、フィリピン、イスラエル、イラン、ナイジェリア等

 所有を制限付きで認める国々:
  インド、韓国、シンガポール、マレーシア、タイ、バングラディシュ、パキスタン、オーストラリア、ニュージーランド、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、トルコ、ケニア、コートジボワ−ル、オーストリア、スイス、デンマーク、ハンガリー、チェコ等

 土地の使われ方が国益に反しないように厳しく規制されている国々:
  ドイツ、アメリカ、フランス、イギリス、多くのEU所国等。例えばアメリカの場合は、連邦法で規制されていて(届け出義務、互恵主義など)これに違反すると罰金を科せられる。更にこの連邦法に加えて各州の州法による規制が加わる。居住の有無、敵国外国人か否か、会社の特性から国益に反しないか否かなど。尚、GATS(WTOサービスの貿易に関する一般協定)でも土地の売買は例外規定に含まれている。

 尚、土地を外国に売りたいくらい豊富にある南米諸国も、近年の経済のグローバル化への対応のため、土地利用権につき各種の制限をつけるようになった。我が国では外国人が自由に土地(農地と市街地以外)を買えるし、その土地がどんな使われ方をしているかチェックもしていないのが現状である。 日本には外国人に土地を売ることを禁止する法的規制がないということで、世界でも極めて珍しい特殊な国になっている。あの鳩山元首相の「日本の国土は日本人だけのためにあるのではありません」というとんでもない発言を生んだ希薄な国家意識は、到底許すことはできない。「国境があるから戦争が起きる」という幼稚な平和主義者が日本をこのような国にしてしまっているのかも知れない。
  世界的な不況に喘ぐグローバル資本は必死に投資先を求めている。外国人にも安く土地を売ってくれる国は正にお伽の国であり、土地ブローカーがその蜜の臭いに集まるのは当然なこととも云える。日本の土地は、特に山林は、極めて安く、かつ所有者が思いのまま自由に使えるという条件は夢の国を連想させる。

 ) 格安の林地
  ハイエナは元気の無い動物の後を追い、手軽に肉にありつくと云うが、グローバルな森林ブローカーが日本の中山間地に獲物を求めるのは無理も無いことだ。中山間地は高齢化と人口減少が進み、地域社会の活性や経済の縮小に歯止めがかからない現状にある。人手を加えることのできない林地は質の悪い材木を生産し、林地価格は19年間、林材価格は30年間連続して下落を続けている。林業従事者は採算のとれない林地を手放したいと思い、ブローカーは現在の底値に魅力を感ずるのだ。かくして、グローバルな森林売買増加の背景には山林を維持できなくなった日本の地域社会の疲弊があると云える。

 c)私的所有権が異常に強い
  加えて多くの近代国家のように土地が全て国家のものであり、国民は一時的に使用権を認められているにすぎないという考え方は日本にはない。戦後の民法改正(1947年)でも「私権は公共の福祉に適合すべきこと」と規定されており、土地基本法(1989年)でも「土地については、公共の福祉を優先させる」と規制を設けている。しかし「成田闘争」のように、実際にはたった1人の地権者の横車で公共工事が進まない事例も多い。東京の環状8号線の完成がこれほど遅れているのも、土地の買収が進まないためである。
 
 日本での土地所有権は地表に留まらず、その土地の上下に及ぶ。このため、地下水や温泉水までが個人所有となっている。これは世界でも例外的な国である。例えばフランスでは農地が農地として使われていないことがわかった時点で、直ちに国へ返還するよう求められる。このため、現状の日本のように40万ha(東京都の2倍)もの耕作放棄地が存在するなど「あり得ない」のである。
  山口隆氏(元第一生命保険の副社長)は雑誌WiLL(2011年3月号)の中で、外資の攻勢に備えて土地の国有化を急ぐ必要があると主張している。私も同感である。(つづく)
                 
(2012.2.16)

 
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