外資が狙う日本の国土と水資源
(5)東京財団の政策提言
 
農学博士  渡邉 巌

 4年にわたる精力的な調査・研究と真摯な議論の結果集約された東京財団による4冊の政策提言(日本の水資源の危機、参考文献参照)は、できるだけ多くの国民に読んでもらいたい優れた内容である。大部の資料にまとめられた情報量の多さは説得力を増している。しかし、同時に読者がこれらを読み抜くには相当の忍耐力と強い問題意識が要求される。私は問題の重要性と緊急性に鑑み、できるだけ多くの人々にこれらを読んでいただき、問題意識を共有してもらいたいという強い希望を持っている。このため、自らはこの問題につき全くの素人であることを顧みず、むしろそのことを武器として、とりまとめてみたのがこの一連の文章(1)−(4)である。大きな間違いを避けるために、また自分の日頃の思いをも加えさせていただくために、これらの4冊以外にも関連資料を読み、文章に取り入れているので、もとより文責は私にあることをご了解いただきたい。4冊の資料の最後のもの(2012年)は提言の要約になっている。しかし、これでもかなり長いのでここに要約の要約を試みた。
 国が国土の保全につき責任があるならば、自らの国土のどの部分を、誰がどのような管理方法で所有しているかを把握していなければならない。ところが地方の人口減少や高齢化により集落が消滅していたり、軍用地近辺や国境離島が国際商品として出回ったりしていても国はその現実を把握していない。国土の所有実態を国が正確に把握する機能が低下しているためである。わが国では土地の私的所有権が極めて強く、土地利用上の国の規制は緩い。このこともグローバル化した資本に土地が狙われる原因になっている。これらは全て国の管理を司る人々の国家意識の希薄化がもたらすものである。国土の管理は国の責任である。やるべきことは直ちにやらなくてはならない。保留して問題を先延ばしすることは最早許されない。

 国と地方自治体が手掛けるべきことは以下の通りである。
   T.国がやるべきこと

     @ 海外資本に対して特に脆弱であるが重要である土地を区別し、特定地域として手厚い保全策を設定する
      A) 過疎地域の中で、公益性の特に高い土地について過疎国土保全法を設定し、例えば以下のような目的のための包
        括的な対策を講ずる。
       a) 売買についての事前届け出制の導入
       b) 所有者不明地の国・公有化
       c) 国土資産管理基金の設定:「森林環境税」註1)の支出対象として所有者不明森林への対策や土地公有化のための
        基金を設定する
      B) 国の安全保障上の見地から特に重要と思われる地域を区別し、国家安全保障土地法を設定する。法の対象地につ
        いては管理行為規制、売買規制、国・公有化などを行う。
    A 地籍調査を完了させる。このためには新たな地籍調査の手法と制度を創出する必要がある。日本における地籍調査完
     了率は、面積率で48%の低さに留まっていることは先((3)未完成な日本の地籍調査)にふれた。地籍調査が済み、国土
     の有りようがわかって初めて海外の土地ブローカーによる国土の浸食を防止できる。更に公共事業の効率化が図れる。
     GPSの精度が向上した現在、GPSによる調査でよしとする区域を設定するなど、調査方法の改善を図るべきである。
    B 公有地売却の見直し。公有地の保有価値が不当に低く評価されている場合が多い。また近年流行のインターネット競売
      では買い手の姿が見えにくいので勧められない。

  U.自治体と住民がやるべきこと
     @ 民対民の土地取引では売買行為の情報は公的主体に入りにくい。土地所有の実態を行政が正確に把握できる仕組み
       に改正すべきである。所有者が不明であれば、徴税で不公平を生む可能性がある。
      A 森林環境税註1)をもとでにして国土資産管理基金を設け、所有者不明対策や土地公有化の予算にあてるべきであ
       る。土地所有者の追跡調査では、必ず何割かの土地の所有者が不明である。このような場合一定の公報期間の後
       に、この基金を用いて公有化を図るのが筋である。
      B 国土保全に関わる地域ガバナンスを強化する。2000年の地方分権一括法の施行いらい、土地売買届け出事務が地
       方自治体に任され、国は情報を総合的に把握することができない状況になっている。このことが土地の不明化、死蔵
       化、無価値化を促進している。住民が一体となって不明な土地が無くなるように努めるべきである。この際「個人情報保
       護法」が事務の遂行を大きく阻害している。この保護法も「公共の福祉」の前では自ずと限界があることを承知すべきで
       ある。
     C 地域住民の支援を得る。土地の買収目的が不明な売買が増えると、将来に予期せぬ社会的コストを支払わされること
       になることを住民に十分理解してもらい、住民の地域管理への参加意識の高揚を図ることが重要である。(つづく) 
(2012.2.25)

  註1) 森林環境税:(4)において述べたように、森林の外部経済性(公益性)は多様である。このため地方自治体が森林整備事業を行い、森林の恩恵を受ける住民に費用負担を求める目的で、法定外目的税として徴収する税である。2003年に高知県が始めた税であり、その後兵庫、岡山、山口、奈良、神奈川等が導入している。
 
 
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