南シナ海の法的地位
はじめに
南シナ海における中国の国家実行の意図と南シナ海の国際法上の地位の検討
1南シナ海問題の背景
（1）南シナ海の特質
○群島（南沙、西沙、東沙および中沙）、岩礁、環礁などで構成
○東西の海上輸送ルートの要衝
中国の経済発展を支える資源の海上輸送ルートの安定的確保は不可欠
○漁業資源の他に石油、天然ガス、希少金属等の豊富な地下資源が存在
ベトナムやフィリピンが主張する排他的経済水域に偏在
（2）南シナ海の歴史的背景
1939年：日本の南沙群島と西沙群島の領有宣言（フランスと外交交渉中）
島名を付して台湾県高雄市の行政区画に編入しリン鉱石等の開発
1946年：日本敗戦とともに中華民国（ROC）が軍事占領して領有宣言
1947年：中華民国が11点線で囲む南シナ海全域の地図を発表して領有権を主張
1952年：対日平和条約発効
第2条（b）項で台湾および膨湖諸島に対する全ての権利・権原・請求権を放棄
第2条（f）項で南沙群島と西沙群島に対する全ての権利・権原・請求権を放棄
（3）南シナ海における中国の国家実行
1974年：ベトナム領有の西沙群島全部を軍事力で攻略し永興島に海軍基地を建設
1992年：領海法(領海及び接続水域法)制定。尖閣諸島、南沙西沙を中国領土と明記
1997年： 国防法を制定し海洋権益確保を海軍の主要任務に確定
1979年：中越戦争後に11点線のうちトンキン湾内の点を修正し9点線に変更
1988年：南沙群島海戦でベトナムから5の岩礁と珊瑚礁を確保
西沙群島に滑走路（2600m）を建設し南シナ海支配の戦略的拠点
1995年：フィリピンのミスチーフ礁（南沙）を占領し漁民保護を理由に恒久施設を建設
2001年：哨戒行動中の米海軍電子偵察機EP-3が中国海軍機F-8と接触
2009年：米音響測定艦インペッカブルの航行妨害
ルージョウ級駆逐艦など6隻が南シナ海に展開し実弾訓練
2010年：海島保護法を制定し島嶼の管理を強化/台湾と同じ核心的利益と表明
2011年：フィリピンの探査船に退去命令/ベトナム資源探査船の曳航ケーブル切断
Y-8哨戒機とY-8情報収集機が南シナ海で空中給油訓練
2012年：南沙群島の9の島に本土と直結する携帯電話通信ネットワークを整備
中国海洋石油が南シナ海北部の19の石油天然ガス鉱区の国際入札を発表
西沙諸島で、海軍の実弾演習を実施/西沙諸島での観光事業を積極的に推進
南シナ海の「文化遺産」の保護のため西沙諸島に事務所を設置
海南島・三亜から、西沙諸島までをコースとするヨットレースを開催
フィリピンのスカボロー礁（中沙群島）で中国艦船とフィリピン海軍艦船が対峙
三沙市を設置し（太平島も行政区に編入）三沙警備区の設置決定
2 排他的経済水域の概念
(1) 沿岸国の権利義務
排他的経済水域：12カイリ領海の外側に188カイリの排他的経済水域（EEZ）
○沿岸国は、EEZの海水部分、海底およびその地下において、生物資源や非生物資源を含む
経済資源に対する主権的権利が認められ(第56条)
○他国のEEZにおける船舶の航行や上空飛行の自由を認められている(第58条)
○沿岸国は人工島、施設および構築物に対する排他的管轄権を有する(第60条)
○自国のEEZ内の生物資源の保存管理のための法令を制定でき、遵守を確保するために他
国船舶への乗船、検査、拿捕等の必要な措置をとることができる(第73条)
(2) 境界画定
○衡平な解決を達成するために国際法に基づいて合意により行う(第74条)
(3) 海洋の科学的調査
○自国領海における海洋科学調査の規制、許可、実施の排他的権利(第245条)
○EEZにおける海洋科学調査は沿岸国の同意を得て実施する(第246条)
専ら平和目的で人類の利益のために科学的知識を増進する調査には同意を与える
天然資源に直接影響を与える調査は自国の裁量により同意を与えないことができる
3 歴史的水域と海洋法
(1) 歴史的水域の概念
○国連海洋法条約：湾の規定を歴史的湾(historic bay)について適用しない(第10条)
○歴史的水域や歴史的湾の概念：
・それ自体では内水や湾の条件を満たしていないにも拘らず、沿岸国の長期にわたる主
権の行使によっては内水と見なされるもの
・国際慣習法上確立しているが要件等の詳細については明確ではない
○ICJ漁業事件(1951年)判決：
歴史的水域は、内水として扱われるが、歴史的権原(historic title)がなければ内水の
法的性格をもつことはなかった水域
○内水：沿岸国の領海基線の内側にある領域主権に服する水の部分
沿岸国は自国内水における船舶通航や資源利用を一方的に規制できる水域
外国漁船の操業、外国船舶の通航や海洋科学調査を自由に規制できる水域
○米国は一貫して他国の歴史的水域を否定
カナダのHudson湾（1906年)・パナマのPanama湾（1956年）・ソ連のPeter大帝湾
（1958年）・リビアのSidra湾（1974年）・インドのMannar湾（1979年）・ベトナム
のTonkin湾（1982年）・オーストラリアのAnxious湾・Encounter湾等（1991年）
（2）瀬戸内海の法的地位的
○瀬戸内海の範囲：和歌山県日ノ御碕と徳島県蒲生田崎を結ぶ線の北側
○ペリカンステート号対第五宝恵丸衝突事件（1966年3月）
○テキサダ号対銀光丸事件（1966年11月）：和歌山地裁判決・大阪高裁判決
当直航海士2名が業務上過失傷害及び業務上過失往来妨害罪で起訴
衝突地点が日本の法令が適用可能な日本の領域内か公海かの問題
①継続的歴史的な慣行：日本の政治的統制や軍事的規制、国内法の適用の事例
②非抗争性：辺境の地位地理的な状況から外国の関心外に置かれていた
（3）歴史的水域の成立要件
○「歴史的湾を含む歴史的水域の法制度｣（1962年3月）
国連事務局が主として学説の内容をまとめた文書
①権限行使の要件：実効的な主権行使(外国船舶の航行排除や漁業禁止)
②継続の要件：相当の期間にわたる主権行使が慣行にまで発達していること
③黙認の要件：権限行使に対する他国の黙認の存在あるいは抗議の欠如が必要
○地理的、経済や安全保障上の歴史的な死活的利益(vital interest)の存在の要件説
○歴史的権原（歴史的要素）の挙証責任は権原を主張する国にある
おわりに
南シナ海における中国の国家実行の意図⇒歴史的水域確立の国際法上の要件の充足
成立要件（非抗争性・黙認）の否定⇒利害関係国の執拗な抗議行動の必要性
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