3月11日の大地震ならびに大津波でお亡くなりになった方々のご冥福を
お祈りするとともに、被災者の方々に心からの御見舞いを申し上げ、
一日も早い復興をお祈り申し上げます。


 第2回「南シナ海」研究会要旨
 
 
 南シナ海問題は、本来、経済だけでなく戦略、地政学などが絡み合う問題であり、経済だけを切り離すのは困難だが、第2回研究会では、経済に焦点を当てて南シナ海問題を考察した。すなわち、南シナ海の経済的価値を概観した後、中国の経済成長とそれに伴う海洋進出について、中国は、経済成長に伴いエネルギー需要を増大させており、その供給と安全保障のバランスが今後の課題となる。報告の要旨は以下のとおり。 

1〜4つの経済的価値 
 南シナ海の経済的価値について、@通商航路としての価値、A石油ガス利益、B漁業利益およびC島嶼領有とEEZの面から考察する。 
 @に関しては、太平洋とインド洋を結び世界の商業海運の半分が通過するのが南シナ海である。ここは、北東アジア諸国へ向けた原油輸送の要所であるが、利用船舶数はパナマ運河の15倍に匹敵する。仮に南シナ海が通航できなくてロンボク、マラッカ海峡などを経由することになると3日は余計にかかることになり、経済的損失となる。また、この通商航路は関係諸国にとって戦略的にも大きな価値がある。ここは、米国にとってインド洋や中東展開への通路であり、中国にとってはなるべく敵を近づけたくないエリアである。また、日本にとっても南シナ海問題の顛末が台湾問題やEEZの画定など身近な問題にも影響を及ぼしかねない。このような南シナ海における航行をめぐって、「航行の自由」の米中間の解釈の違いによる対立が起こりつつある。 
 Aに関しては、第二のペルシャ湾と呼べるほどの石油、天然ガスが存在すると推定されている。しかし、実際はまだ調査が不十分であり、実態は定かではない。Bに関しては、ビンチョウマグロの回遊路であると見られており、豊富な漁業資源が存在する。Cに関しては、台湾、中国、ベトナム、フィリピンなどによる領有権争いが存在する。中国は南シナ海全域を9段線で囲い込み、領有権を主張している。 
 
2 中国の海洋認識 
 中国は長年、ユーラシアのland powerとして存在してきたが、北方のソ連との対立が終わりsea powerとしての進出を本格化させた。中国の海洋進出を進めた動機の1つに経済発展が挙げられる。中国は経済成長を達成した。しかしその成長は貿易など海外との関係が原動力となっており、さらにその貿易のほとんどを海運に依存しているため、海洋権益を確保する重要性が増した。また、海洋権益を確保することで今後のさらなる発展を狙っている。このように海洋への意識を高めた中国が目指しているのは“陸海兼備”の大国である。中国は管轄海域を“藍色国土”と表現し、海を国土と見なして囲い込みをしようとしている。つまり中国は、依然としてland powerとしての見方を強く持っているのだ。 
 海洋力強化を図る中国の強硬姿勢が顕著であるのが南シナ海だ。中国は海洋力の増強しつつも平和的台頭を主張している。ではなぜ、南シナ海で強硬姿勢にでるのだろうか。それは中国の持つ強い被害者意識に起因している。中国は現在自身の主張する管轄海域のほとんどを実効支配できていない。そのため、本来自らが所有する海域のほとんどが他国によって勝手に開発されている状態であると認識している。また、近年の南シナ海や中国近海における状態は中国をけん制するための包囲網であると捉えており、今後この問題が国際化すると中国の被害者意識が増し、力を背景に解決しようとする流れが出てくるのではないかと懸念されている。現在建造中の空母は、軍事ツールでなく政治ツールであるとの見方が妥当であるだろう。 
 
3 資源争奪と輸入安全のジレンマ 
 中国では経済成長に伴ってエネルギー需要が高まりつつある。90年代からは積極的に海外進出を始め、それまで西側諸国が手を出さなかったような国においても自ら油田を開発し輸入していた。近年では中国の国内外で、世界の三大メジャーと手を組み共同開発を行うという傾向も出てきている。 
 エネルギー需要の高まる中国が注目しているのが海上“大慶油田”の開発である。大慶油田は60年代に中国が開発した油田であり、年間5000万tもの原油を産出している。中国は海上に大慶油田と同規模の油田を開発することを目標としている。そのために5型6船の連合艦隊を用意し、従来の開発技術を飛躍的に発展させた。現在これらは香港、海南島沖に展開しているが、今後南沙方面に進出する可能性もある。また、海上油田の開発に関し、すでにフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアなどの周辺諸国と係争状態にある。 
 
おわりに  
現在中国は原油輸入路の安全保障において米軍が維持する秩序へfree rideしている状態である。中国は今後経済利益と地勢戦略上の利益のバランスをどうするかについても考慮していかねばならない。これは次の習近平体制がどのような路線をとるかが鍵となる。また、中国は中国脅威論や日米関係にも神経を使っており、日本も今後中国とどのような関係を築いていくか考えねばならない。
 

1回「南シナ海」研究会
3回「南シナ海」研究会
4回「南シナ海」研究会



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