3月11日の大地震ならびに大津波でお亡くなりになった方々のご冥福を
お祈りするとともに、被災者の方々に心からの御見舞いを申し上げ、
一日も早い復興をお祈り申し上げます。


 4回「南シナ海」研究会報告要旨 
 
南シナ海を巡る米中の政治・軍事戦略
  今回は特に政治戦略に重点を置いた議論をした。まず、世界のパワーシフトについて論じ、その後南シナ海の地政学的重要性を確認した。そして中国が南シナ海に関する政策をどのように進めてきたかを概観し、そこでの核戦略について考える。また、中国が繰り広げる法律戦についても検討した。最後に、南シナ海と日本の安全保障について言及した。

1、パワーシフトについて
 近年、海賊問題がグローバルな問題に発展している。これはすなわち、覇権国のパワーがゆらぎ、海洋の安全を十分に保障できていない状態の表れである。これまでの海洋秩序は19世紀にイギリスがシーパワーとして台頭し世界中の海賊を駆逐した後、米国により引き継ぎ守られてきた。しかし現在、米国は艦船など個々の性能は高める一方で、数量を減らし、世界の海洋全体を守るパワーは低下している。そして米にとってかわるようなシーパワーは存在しないのが現状だ。米のパワーが減退する一方で、海洋進出を進めるのが中国である。
 中国は、その長い歴史を陸上国家として過ごし、海洋へ進出するのはほぼ初めてのことだ。その背景は、中国の急速な経済発展を支えるため、またソ連が崩壊し陸上での脅威がなくなり海洋権益を守ることに利害が変容したからだ。しかしそれまでの成長や海洋進出も、米が守ってきた海洋秩序を前提にしたものであり、中国はその安全にフリーライドしていた。今後、もしこの秩序が崩壊すれば、中国は発展の前提を考え直さねばならない。

2、南シナ海の地政学的重要性
 ある国が地域の覇権を握ろうとしたとき、治めるべき海のことを地中海と表現するが、アジアの地中海がまさに南シナ海だ。その支配を初めて試みたのはかつての日本であり、太平洋戦争の一因も南シナ海にあると言える。当時日本は侵攻を進めていたが、単に中国へ進出した程度では米国との戦争までは発展しなかった。しかしインドシナ方面に進出し南シナ海の覇権を握ったため、米の戦略を脅かし戦争へと突入したのだ。この歴史を教訓とし、中国は南シナ海が米にとっても重要な地域であるということを認識すべきである。
 現在中国が言う列島線はほとんどが米の友好国によって占められている上、強硬的に支配するには国際法上の制約も大きい。そこで中国が目指すのは、列島線の支配ではなく周辺海域であるEEZの支配だ。またEEZは無人島を支配することで拡大することができるため、近年尖閣や南沙諸島に対する強硬姿勢を強めている。中国がEEZを拡大するのは、単なる経済的理由からではなく、南シナ海における行動範囲を広げるという地政学的理由からである。

3、核心的利益としての南シナ海/核戦略
 2009年11月に出された米中共同声明の中で、両国は主権に関する核心的利益を双方に尊重すると述べた。当時オバマ政権は楽観的な対中政策をとっており、この声明により中国は行動を自重すると見ていた。しかし中国は、これ以降、南シナ海も中国の核心的利益であると行動で示すかのような強硬姿勢をとった。この姿勢に危機感を覚えた米国は、それまでの宥和的な態度を一変し、強い対中姿勢を見せる傾向に変わりつつある。中国の核心的利益とはそもそも、台湾やチベット問題など共産党一党支配を脅かし得るものを指し、南シナ海がそれにあたるか否かについては国内でも意見が割れている。米国の対応は中国の強硬姿勢を一応は抑えたが、2011年7月のARF会議前に中国はASEAN諸国と南シナ海における行動のガイドラインを作成した。これにより中国はASEAN諸国を懐柔し、南シナ海問題を米国が蒸し返しているとARFの場で見せようとした狙いがあると思われる。
 また中国は、南シナ海を自身のオホーツク海化しようとしている。つまり米ソ冷戦中に、ソ連がオホーツク海に潜む潜水艦からミサイルで米本土を狙えるという緊張状態を作り出したのと同様の状況を、南シナ海で再現しようとしているのだ。中国がもし南シナ海にミサイルを配備すれば、米本土を狙うことが可能となり、対米核戦略をより有利に進められるだろう。一方、米国は核なき世界を目指しているが、それは中国が最小限抑止策をとっている前提に基づいており、中国がある時点で限定的抑止に変わるようなことがあれば、米の安全保障政策も変わらざるを得ない。

4、法律戦
 法律戦とは国際法の解釈を巡り、中国が他国と衝突することである。特にEEZにおける他国の軍艦、軍事活動に関する解釈を自国に有利なように再解釈している。実際の衝突事案としてEP-3事件やインペカブル事件が挙げられる。中国が他国の行動を牽制する際法的根拠として持ち出すのがU字ラインだ。中国内でもU字ラインの解釈についてはしばしば議論が分かれるが、その内側にある島の領有権を主張するラインであるとの解釈が最も主流である。このような法的根拠に基づき、中国は自国のEEZを拡大し領有化しようとしている。本来国際法ではEEZ内で認められるのは沿岸国の主権的権利であるが、中国はそれを主権と混同させている。また、EEZ内では航行の自由が認められるが、中国は自身を米が主張する航行の自由の被害者であると見ている節がある。米中が万が一軍事衝突するとしたらこの点に関してだと思われる。日本はこの航行の自由に関して米国としっかり認識を合わせ中国に対応していく必要がある。

5、南シナ海と日本の安全保障
 南シナ海は日本のシーレーンとしても、とても重要な地域であり、この安全保障は日本の安全保障に直結することは明らかだ。これは、2010年に出された防衛大綱でも意識されている。日本にとって深刻な脅威として、中国の南シナ海進出と米の核の傘の信頼性が崩れるということ、この2点を視野に入れ対策と戦略を立てなければならない。

1回「南シナ海」研究会
2回「南シナ海」研究会
3回「南シナ海」研究会

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