3月11日の大地震ならびに大津波でお亡くなりになった方々のご冥福を
お祈りするとともに、被災者の方々に心からの御見舞いを申し上げ、
一日も早い復興をお祈り申し上げます。


 3回「南シナ海」研究会報告要旨 
 
南シナ海における中国の軍事行動
 今回は、中国の軍事行動を中心に議論した。中国が海洋国家となり米とパワーバランスをとる場合、南シナ海は戦略的にとても重要な地域となる。今回の議論ではいかに南シナ海が重要であるか、また中国が海洋国家となる可能性があるかをその軍事面から検討した。議論はまず、中国の軍事戦略を概観した。その後実際に中国が南シナ海で行っている行動を検討し、中国が海洋国家になるための問題点とその実現可能性を議論した。

1、中国の軍事戦略
 中ソ対立の時代、中国は人民戦争戦略をとっていた。これは受け身な戦略であり、敵が攻めてきたら国内に引き入れ、人海戦術で倒すものだ。その後中越戦争、中ソ和解を経た中国は、1985年に「新時代の国家軍事戦略方針」を制定し、その軍事戦略を積極防衛へと変更した。これは守勢戦略であり、攻撃を受けた場合のみ反撃するが、その作戦は攻撃的であり、領域や時間を無制限に反撃する。同時に、それまで沿岸防衛と台湾にのみ目を向けていた海軍が「近海積極防衛戦略」を採用した。この戦略の下海軍は、海からの侵略を阻止し、国土統一および海洋権益保護のため2000年までに近海防衛の海軍を整備するという目標を掲げた。これにより、中国は近海進出の政治的正当性を得、海軍は陸、空軍と立場を逆転させ政府から最大の恩恵の下、近代化を進めた。これは経済成長の原動力ともなり、遠隔島嶼の領有権主張の際強い支えとなった。

2、中国海軍の兵力と南シナ海における活動
 中国海軍の兵力は日本の海上自衛隊と比較するとまだ不十分ではあるが、近代化に力を入れており、年々作戦能力を高めてきている。中国海軍の主要作戦は主に以下の8つが考えられる。@核抑止、A封鎖、B海上交通路破壊、C対地攻撃、D対潜水艦攻撃、E海上輸送保護、F海軍基地防衛、G海洋へのアクセスと利用の保護である。これらのA〜Fについては、中国海軍がはっきり明示している。@、Gは明示されてないが、実際に行動していることである。
 中国海軍は防衛能力を向上させ、南シナ海を内海化することで、そこで核戦略を展開しようとしている。南シナ海は、中国本土からのミサイルの射程範囲であり、そこで活動する対潜哨戒船を牽制し、陸から支配することが可能である。このミサイルは在日米軍基地も射程内に捉えているが、現在はまだ命中精度が低い。しかし、牽制力としての効果は十分であり、これによりインド洋でのプレゼンスを確保しつつある。中国はより精巧なミサイルや、迎撃不可能なバリセックミサイルの導入も考えている。このように、陸からの支配を万全にすることにより、中国は南シナ海にSLBM搭載潜水艦を配備し、JL−2ミサイルを発射させられる状況を作ろうとしている。南シナ海にこれを配備することができれば、ミサイルの射程が米本土に到達するからである。もし、中国がこの状況を創り出せば、米中間はかつての米ソ間のようにどちらかがミサイルを打つと互いに壊滅してしまう。そのため、今までの日米防衛戦略も見直す必要性が出てくる。まずは、このような状況を創り出さないことが重要であり、そのためには台湾の存在がますます重要だ。

3、海洋国家を目指す中国にとっての問題点
 海洋国家になるための問題点としてまず地理的なハンディキャップが挙げられる。中国は周囲を島嶼国家に囲まれており、それは海へ進出する障害である。また、大陸国家として成長してきた中国が、海洋国家へと転換すること自体困難だ。なぜならそのような前例がない上、大陸国家と海洋国家では国民性もリーダーシップも異なるからである。さらに中国が急激に海軍力を増強し、海外での資源獲得を進めていることも、国際社会からの反感と警戒心を強め、進出しにくい状況を創り出し得る。国内においても沿岸部と内陸部の経済格差の拡大は懸念点だ。これらが海洋国家となる上で中国が抱える問題点である。

4、中国海軍の今後の可能性
 では実際に中国が海洋国家になる可能性はどの程度あるのか、ということを海軍の能力から考える。ここでは5つの点からその可能性を検討した。まず1つ目が中国海軍による周辺海域の防衛能力である。中国は第1列島線内において陸上機によるエアーカバーも整備し、極めて強力な能力を有する。そのため、中国近海は米国でも入り辛い状況となっている。
 2点目は、第2列島線など外洋における作戦能力である。これはASBM以外、不十分である。まず洋上防衛能力が脆弱であり空母を外へ出すことができない。また、潜水艦の技術や対潜能力も極めて脆弱である。洋上で長時間作戦を行うための洋上補給能力も未だ不十分で、遠くへ行けるが作戦展開は難しいというのが現状である。
 3点目は台湾侵攻能力についてである。中国が遠洋に進出する際台湾を抑えることは非常に有益であるが、対岸にミサイルを配備している現状だけでは不十分だ。ミサイルによる爆撃は、台湾側がしっかり防空壕などを用意していればある程度はしのぐことができる上、戦闘状態に陥ってから2週間もすれば米の応援が来るため、それ以内に作戦を遂行させなければ中国に勝機はない。また後方支援能力が十分でないので長期戦は困難である。中国に勝機があるとすれば、台湾政府による早急な降伏がなされた場合であり、現在の国民党政府ではこのシナリオも有り得る。
 4点目に核抑止能力を検討する。中国はSSBNやJL-2SLBMといった兵器はすでに海南島の基地に所有している。問題はその戦略展開地域である。中国海軍が原子力潜水艦を展開するなら南シナ海しかないが、現在はまだ配備するに至っておらず未完状態である。最後に航空母艦作戦能力について検討する。中国が現在建設中の航空母艦はカタパルトがなく、十分戦闘できる艦載機を載せられない。また空母を守るための対潜能力も不十分であり、空母が戦力として活躍するにはまだだいぶ時間を要すると考えられる。

1回「南シナ海」研究会
2回「南シナ海」研究会
4回「南シナ海」研究会

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