3月11日の大地震ならびに大津波でお亡くなりになった方々のご冥福を
お祈りするとともに、被災者の方々に心からの御見舞いを申し上げ、
一日も早い復興をお祈り申し上げます。



    第7回「防災と法」研究会報告要旨

                                                                   事務局長  井 晉
  第7回研究会では、これまで積み重ねてきた議論をふまえた上で、次の各事項について検討した。
1、「法令改正を必要とする事項」
 @ 地方公共団体の長に事故ある場合等における応急の措置。
 A 緊急災害対策本部及び原子力災害対策本部に下部の各種対策本部等の設  置。
 B 緊急災害対策本部と原子力対策本部との統合。

2、「法令の運用、解釈に関する事項」
 安全保障会議の定期的かつ継続的開催を取りあげた。
 先ず1の「法改正を必要とする事項」の@「地方公共団体の長に事故ある場合等における応急の措置」に関する法令の検討を行った。
 東日本大震災において、一部の市町村で首長自身が職場を放棄したり、被災して対応対策の指揮が取れなかったこと、及び、庁舎や役場の施設が損壊し自治体職員の被災により、応急対策や災害復旧及び恒常的な自治事務が実施できない事態が生起した。
 現行法では、都道府県知事及び市町村長に事故あるとき、又は欠けたときの「長の職務代理」の規定(地方自治法第152条)は設けられている。また、災害発生時、応急措置の字使者である市町村長に事故等があったときの都道府県知事による応急措置を代行(災害対策基本法第73条)も整備されている。また、都道府県知事等は、必要があるときは指定行政機関の長等に対し職員の派遣要請ができる(災害対策基本法第29条)ことになっている。
 しかし、今回の震災において次の課題が浮き彫りになった。即ち、都道府県知事の応急措置の代行は限定的な権限行使であり、また、都道府県知事に事故等あった場合の代行規定が整備されていないこと、市町村長や保持期間が存在しても組織的に活動できない場合の規定が整備されていないこと、及び都道府県や市町村のみならず国の行政機関に事故等がある場合の対処措置に関する規定が整備されていないこと等が指摘された。議論の結果、研究会の提言は、都道府県知事の応急措置の代行の範囲を一般的な自治事務まで拡大すること、都道府県知事に事故等があった場合に政府が応急措置を代行すること、更に、内閣及び各省庁に事故あるときの、対処措置についても検討することであった。 想定外であるとの言い訳は通用しないので、法の欠缺状態を無くすことが必要であり、そのために災害が発生した場合の最悪のシナリオを作成して、それに適切に対処できる態勢を構築しなければならない。
 次いで1のA「緊急災害対策本部及び原子力災害対策本部に下部の各種対策本部等の設置」に関する法令の検討を行った。今般の震災に際し、政府は緊急災害対策本部及び原子力災害対策本部の設置後、それぞれの対策本部に下部の対策本部等(例えば震災・津波対応として福島・岩手現地連絡対策室、被災者生活支援特別対策本部等、原子力災害対応として福島原子力発電所事故対策統合本部等)を設置して対処施策を実施した。しかしこの施策は、法的根拠が不明確であり、組織乱立等の批判を受けた。
 政府は5月6日に、かかる批判に対処するため、当面本部としては災害対策基本法と原子力災害特別措置法上の「緊急災害対策本部及び原子力災害対策本部」のみとし、その他は整理する方針を示した。現行法律上、設置根拠が規定されているのは「現地災害対策本部」のみである。例えば、災害対策基本法第25条(非常災害現地対策本部)、28条(緊急災害現地対策本部)、及び原子力災害特措法第17条(原子力災害現地対策本部)となっている。

 各種対策本部乱立問題の明らかになった課題は次のとおりであった。
 @法律に明文規定が無い組織を設置することは法令無視あるいは法令軽視であり、かかる本部等の設置について是認した各対策本部職員、内閣法制局、各府省庁の官僚である国務大臣に対する補佐機能が不十分だったこと。

 A設置された下部組織の性格は、中央防災会議(災害対策基本法第12条)に設置できる「専門調査会」(同条第6項)に類似したものであり、緊急に設置すべき政策と中長期の施策を峻別する必要があること。

 B緊急措置計画を作成し実施することは中央防災会議の責務(同法第11条)であり、中央防災会議の計画が今般役に立たなかったことは、同計画が抽象的かつ具体性に乏しかったこと。

 C中央防災会議の計画が不十分であることが判明した場合、対策本部の下部機関が必要であれば法律の一部改正を行う必要があった。

 議論の結果、研究会は以下の提言を行うことにした。
 緊急災害対策本部、非常災害対策本部及び原子力災害対策本部の組織に、新たに「緊急措置に関する計画の作成、実施を行う対策分科会(仮称)を設置できる」との規定を追加すること。設置数は政令で定めるとして、設置の根拠と所掌事務の範囲を明らかにすることが必要である。

 1のB「緊急災害対策本部と原子力対策本部との統合」に関する法令については、今回の震災においては災害対策基本法に基づき緊急災害対策本部と、原子力災害対策本部を設置して、それぞれの応急措置について指揮系統が存在した。かかる実態から、対策本部の並立は災害対策の実施に際して統一性、適時性を欠き、指揮系統面においても非効率である、との課題が指摘された。
 研究会は、以下のとおり提言する予定である。
 原子力災害特別措置法は、災害対策基本法の特別法であり、法の一般原則からすると特別法の関係規定が優先適用されることになるが、適用される地理的範囲を考えると災害対策基本法が優先されるべきであった。従って、災害対策基本法に、概ね同一の地域内において、同時期に生起した災害においては、「緊急及び非常災害対策本部に原子力災害対策本部を吸収合併して対策本部を設置できる」との規定を追加することを提言する。

 最後に、2「法令の運用、解釈に関する事項」における「安全保障会議の定期的かつ継続的開催」の事項について議論が行われ、今回の震災に関連した安全保障会議は一度も開催されなかった事実から、次のような課題が指摘された。
 即ち、現行規定によると、会議は国防に関する重要事項及び重大緊急事態への対処に関する重要事項を審議する機関であり、安全保障会議設置法による諮問は、首相自ら判断して会議に諮ることを基本とし(第2条1項)、議員は必要に応じて意見を述べる(同条2項)ことになっている。
 当時の総理大臣をはじめ多くの議員は、今回の震災に伴う周辺国の活動は審議事項に当たらないと判断したと思われ、その認識の甘さが露呈された。
 また、自衛隊10万人態勢で災害対策にあたっている間の、わが国周辺における事象、例えばロシア空軍機による領空侵犯事案等について対策や指示もなされていないことからも、もはや、安全保障会議は形骸化している。
 研究会は、定期的及び事案発生毎に安全保障会議を開催することなど、会議の活性化を図る必要があると提言する。
 
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