Key Note Chat 坂町

第140回
「『イージス・アショア』を考える」

長野禮子 
 
 河野防衛相は6月15日、山口県と秋田県に計画していたイージス・アショア配備断念を発表した。以降、政府筋ではレーダーを陸上に配備し、退役した護衛艦にミサイルを搭載、イージス艦の増勢など様々な案が取り沙汰されている。今回は、元空将の織田邦男氏をお迎えし、この問題について氏の見解、提案を含め詳しくお話頂いた。
 この度「断念」した要因の1つとして、導入予定だった2基7,000億円に加えて改修費が数千億円に上ることが挙げられている。これに対し氏は、最新鋭の機種に拘らず、ポーランドやルーマニアに配備されている1基800億円程度のもので十分であり、配備場所も陸自の基地に限定せず、空自の高射隊基地等も検討することにより、ブースター落下に対する問題を軽減できるとした。その案として青森県の車力、秋田県の加茂、山口県の見島、福岡県の芦屋などを挙げた。
 安価な陸上イージスの既設レーダーサイト、既設高射隊への配備、日本独自の発射前ミサイル破壊能力整備、米軍を補完する共同作戦能力(ストライクパッケージ)整備、新技術研究開発などの充実を提示した。  
 また、敵基地攻撃能力については、政経中枢を攻撃する懲罰的抑止、作戦司令部、軍事通信中枢、ミサイル貯蔵庫などへの攻撃(ストライクパッケージ)、発射前のミサイルを地上で破壊する拒否的抑止が混同されているとし、整理した議論が必要であると論じた。
 拒否的抑止は、先制攻撃ではなく、専守防衛の範囲内である。日本が主体的に行うべきであり、ストライクパッケージ能力についても直ぐには難しいが整備を進めるべきと提言。
 極超音速変則軌道等の新型ミサイルについては、①発射前ミサイル破壊能力整備、②ミサイルシステムのアップグレードもしくは別途開発、③ブースト段階迎撃の研究開発によって対応。飽和攻撃については、日米共同ストライクパッケージ機能を整備する必要性を説いた。
 この度の安倍首相と河野防衛相のイージス・アショア断念をまずは評価し、これを補完、継承する上述の案も含めて最良の方式を検討して頂きたい。
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、通常の開催を避け、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「『イージス・アショア』を考える」
講 師: 織田 邦男 氏(JFSS政策提言委員・元空自航空支援集団司令官(元空将))
日 時: 令和2年7月20日(月)16:00~17:00

第139回
「展望の見えない日韓関係」

長野禮子 
 
 
  今回は元駐韓大使の武藤正敏大使をお迎えして、史上最悪と言われている日韓関係についての分析と韓国の現状について詳しくお話いただいた。
 文在寅大統領は昨年、自らの支持層に向けた政策を進めてきたが、悉く失敗。米朝の仲介役も果たせず、経済面では30~40代の失業率が増加し、曺国前法相を庇い切れなかったにも拘わらず、高支持率が続いている。この世論調査自体に、韓国国民も疑いを持ち始めているという。
 また、所謂「慰安婦」「徴用工」問題、レーダー照射問題、「ホワイト国」除外に対しても、韓国は一切日本側の主張を受け入れることなく、支離滅裂な理屈を付け日本への対抗手段を講じる一方、中朝露に接近して「レッドチーム」入りを目論む姿勢を続けている。大統領の最重要責務である安保政策を疎かにしている文政権は、非核化よりも38度線の火力が恐いとみて、非核化への意識が強いとは思えない。日韓基本条約や日韓合意も履行されず、自ら国際社会での立場を貶めている韓国に内政外交の安定はなく、ここに文在寅政権の国益無視の本質が見える。
 文政権は今後も、①積弊の清算 ②左派長期政権の樹立 ③北朝鮮との融和 ④非核化――を揚げながら南北統一の方向に向かっていくだろう。これはつまり、保守政権のやってきた業績を全て否定し、親日派の排除も強まることを意味するということか。
 武藤氏は更に、朴槿恵政権は僅かな側近との政権運営で失敗したが、文政権は人事を固めているので守りに強い。立法・行政・司法の三権を全て抑え、既に「独裁全体主義国家」といっても過言ではない状況にある。朝鮮日報と中央日報以外は政権批判をせず、放送局のトップも革新系に全て代え、言論を支配している。ネットメディアも文政権支持派が占めており、そこから追い出された人達が文在寅叩きで立ち上げたネットメディアがあるが、まだ数十万単位で影響力は小さい――と語る。
 展望が開けない日韓関係ではあるが、東アジアの安定のために、日本は決して韓国のこうした動きに棹差すことのないよう努力することが肝心であり、文氏が何を言おうと妥協してはならず、何をするかを見極めることが重要だ――と締め括る。
テーマ: 「展望の見えない日韓関係」
講 師: 武藤 正敏 氏(元大韓民国駐箚特命全権大使)
日 時: 令和2年1月22日(水)14:00~16:00

第138回
「日台の歩みと今後の日台関係」

長野禮子 
 
 
 今回は、前日本台湾交流協会台北事務所代表の沼田幹夫氏をお招きし、日台関係の歩みと将来についてお話を伺った。
 日本と台湾の「中華民国」は1972年の断交以来、外交関係は無くなったが、経済、文化などの実務関係は益々発展している。一方で、特に安全保障や政治面において日本は常に中国の顔色を窺いながらの外交を余儀なくされ、アジアを取り巻く情勢で一番の問題である対中関係をどのように維持運営していくかということが命題となっている。
 台湾はかつて、政権の主要メンバーは外省人で占められ、本省人は李登輝氏他数人しかいなかった。1996年以降、それまで国民党一党独裁下にあった台湾の自由化、民主化に努めた李登輝総統の功績は多岐にわたり、20世紀初頭の大政治家としてその名は今も健在であり、ステーツマンと言われる最後の人とも言える。
 当時の台湾には、国民大会代表という人達がいて、大陸や新疆ウイグル、チベットなどの代表約800名が永久的に国会議員として身分も生活も保障されていた。李氏はその全員に500万元を渡して引退させるという大事業を果たし、教育現場ではそれまでの中国史から正しい台湾史を教える教育改革を実現した。
 一方、1972年以降の日台との覚書(条約に相当)は全部で64本。そのうち馬英九政権時代(2008‐2016)の8年間で28本。今や日台の相互往来は700万人を超える時代となり、オープンスカイ、投資保護、租税、漁業などに関する協定を締結したことは大きく、将来を見据えた基礎となっている。その約半分が馬英九政権時代に締結されている事実をどう解釈するか・・・。馬英九を評価してもいいのではないか――と氏は語る。
 2016年、蔡英文政権誕生。この選挙で民進党は、行政権と立法権を掌握することができた。この結果は日本としても歓迎するものであり、当時、日台の一番の政治的課題であった福島県産の輸入品規制撤廃も間違いなく解消されると思っていたが、結局果たされず、蔡英文という政治家に疑問符がつく状況となった。
 とは言え、昨年6月頃からの香港デモ騒動で蔡英文の支持率は急上昇。1月の総統選挙では、国民党の韓国瑜に大差をつけ、蔡英文は再選された。米国はここ数年で台湾旅行法を作り、F16も売却するなどの支援をする一方、日本へのリクエストである「潜水艦技術を移転」「防衛大学校への台湾留学生を受け入れ」に応える状況は、今の日本にはない。
 氏はかつて李氏から3度、「日本への片思い」の話を聞いたと言う。台湾が台湾であり続けることが、日本の幸福であることに変わりはなく、今後も日米同盟を基軸とした外交政策で進むことが正しい選択であることに間違いはない。その取り組みが具体化しない大きな要因は、依然日中の政治問題が横たわるからである。経済最優先を続ける以上、政治的解決は遠のく。習近平主席の国賓招待断固反対を表明した本フォーラムは、今を好機と捉え、安全保障をも含めた日台関係の更なる深化のために、安倍首相の「政治力」に期待するものである。

 

テーマ: 「日台の歩みと今後の日台関係」
講 師: 沼田 幹夫 氏(前(公財)日本台湾交流協会台北事務所長)
日 時: 令和2年1月17日(金)14:00~16:00

第137回
「米国から見た日本の安全保障、日米同盟は不公平か」

長野禮子 
 
 
 今回は、ハーバード大学シニアフェローとして米国でご活躍の尾上定正氏をお招きし、米国の現状や米国から見た日本の安全保障について、以下4点についてお話頂いた。
 
1、トランプ政権についての認識

 トランプ政権は、トランプ氏の個人的な基準が国家の利害関係に直結していることから、政権に対する米国民の支持は二分されているが、トランプ大統領は根強い支持層を持ち、支持率40%を割り込まない限り再選は固い。一方で、2期目になると更にトランプ流になるので、なかなか厳しい局面が表面化するかも知れない。

トランプ政権の外交・安全保障について、新孤立主義の趣が強くなっている。“America First”は“Trump First”の意味で、矛盾する政策は功罪混交となり、結果的にマイナス面が表面化している。対中政策では強硬に見えるが、意外と習近平と上手くやっているのではないか。
 
2、対中政策について
 Huaweiの締め出しなど、米中争いの実態は技術覇権を巡る争いとなっている。その覇権争いに、否応なく日本も他国も巻き込まれる。日本の部品もHuaweiに買われているが、それをどうするかということになる。
 
3、米韓関係について
 日韓問題が米韓問題に飛び火してきている。現状は、戦時作戦統制権返還の第一段階にあり、これが返還されると米韓関係も変わる。習近平氏、金正恩氏、文在寅氏、トランプ氏の全員が一致しているのが、米軍の撤退だ。敵対的な核武装の統一朝鮮が出現することが一番の懸念であることから、これを阻止しなければならない。
 
4、日米同盟について
 米国の一般人には日米同盟についてはあまり知られていない。日米同盟は第5条でアメリカに依存する代わりに6条で基地を提供する、という非対称の関係で不平等にならないように双方で調整してきた歴史がある。それをトランプ氏は不公平と言い出した。それを是正するには、憲法と日米安保を一体で変えるしかないと思う。アメリカの有識者も危惧し始めている。日米両国の更なる国益調整の必要性が出てきていると言えるのではないか。
 
 今回を持って今年の「Chat」は終了とする。次回は令和2年1月に2回を予定している。今年も時宜に適ったテーマと講師をお迎えし多くのことを学ぶことができた。来年はさらに厳しい年となりそうである。白熱した議論を期待したい。
 
テーマ: 「米国から見た日本の安全保障、日米同盟は不公平か」
講 師: 尾上 定正 氏(JFSS政策提言委員・ハーバード大学シニアフェロー・前空自補給本部長)
日 時: 令和元年12月9日(月)14:30~16:30

第136回
「台湾問題と今後の日米韓関係」

長野禮子 

 今回は台湾訪問を終え東京に着いたばかりのエルドリッヂ氏を約1年ぶりにお迎えしての「Chat」である。氏の台湾訪問の目玉は、台湾総統府訪問と官房長代理クラスとの意見交換だった。意見交換ができたのは有意義だったが、結局は「アメリカはあまり行動しない」「日本は絶対に行動しない」ということで、忸怩たる思いを拭うことはできなかったようである
 そこで期待するのが日本版台湾関係法であると氏は言う。既に昨年の「正論」9月号で発表した「日本版台湾関係法を制定すべき」という氏の記事を取り上げ、今年1月、米国の台湾関係法成立から40年が経たことを踏まえ、日本も台湾関係法を制定すべきであると説く。安全保障における日台関係は正に「運命共同体」であり、JFSSもその立場に立って制定を急ぐべきとの意見は今に始まったことではない。しかし、この期に及んでも親中政治家の影響が強く、台湾重視の政治家の育成が成されていない事を氏は鋭く指摘する。総統府の懸念は、安倍政権で日台関係はより親密になったと感じているかもしれないが、10年前と比較すると全ての面で希薄になっているという点である。聞いた我々も驚いた。
 エルドリッヂ氏は、このほか米国の大統領選の行方や米軍駐留費の問題、韓国問題に触れ、出席者との活発な質疑応答が行われた。

テーマ: 「台湾問題と今後の日米韓関係」
講 師: ロバート D・エルドリッヂ 氏(JFSS上席研究員・元在沖縄海兵隊政務外交部次長)
日 時: 令和元年11月20日(水)14:00~16:00

第135回
『令和元年度版防衛白書』の説明を聞く

長野禮子 

 令和の御代を迎え、初めての防衛白書が出版された。本年度防衛白書の特色としては、昨年度に策定された新防衛大綱、新中期防衛力整備計画の内容について、コラムを交えながら紹介している。加えて、平成の防衛省・自衛隊を振り返る巻頭特集を掲載し、AR動画を活用しながら、当時の映像によって振り返ることが可能となっている。
 本編は、4部構成となっており、第1部「我が国を取り巻く安全保障環境」、第2部「我が国の安全保障・防衛政策」、第3部「我が国防衛の三つの柱」、第4部「防衛力を構成する中心的な要素」など、という内容となっている。
 第1部では、グレーゾーン事態やハイブリッド戦、そして宇宙・サイバー・電磁波領域など、安全保障環境の変化と我が国周辺国の軍事動向に触れている。中でも、中国・ロシアとの戦略的競争が安全保障上の最優先課題であるとの認識を示し、中国に対する抑止を強化する必要性を打ち出している。
 第2部では、新防衛大綱、新中期防、令和元年度の防衛力整備、そして平和安全法制施行後の自衛隊の活動状況について触れている。その上で、第3部は、我が国防衛の柱として、我が国の防衛体制について、グレーゾーン事態、島嶼防衛、宇宙・サイバー・電磁波などの新領域、そして大規模災害への対応を取りあげている。加えて、日米同盟、諸外国との協力体制の重要性を指摘している。
 最後に第4部では、防衛力を支える人的基盤や衛生機能、防衛装備・技術に関する諸施策、そして、地域社会・国民との関りを取り上げ、安全保障問題に対する国民の理解と協力の重要性を述べている。
 質疑応答では、日本の防衛体制が相変わらず専守防衛になっていることや、憲法改正が実現しないことに対する安全保障上の問題点等々、白書作成に当たって、担当部署や防衛省の所感が表れる内容にするのも良いのではないかとの意見が出た。


テーマ: 『令和元年度版防衛白書』説明会
講 師: 川嶋 貴樹 氏(防衛省官房審議官兼情報本部副本部長)
日 時: 令和元年10月31日(木)14:00~16:00