Key Note Chat 坂町

第116回
「我が国の政策や安全保障を脅かすサイバー諜報活動の実態とその対処例」

長野禮子 

 我が国に対するサイバー攻撃のうち、標的型サイバー攻撃、特にサイバーエスピオナージ(サイバー諜報活動、サイバースパイ活動)については、攻撃・被害実態把握の困難さもあり、どのような攻撃がなされているか状況把握が困難である。一方で、海外セキュリティ会社などによるレポートによれば、日本へのサイバーエスピオナージは途切れることなく行われているとされ、日本に対するサイバーエスピオナージを行う攻撃者は「ステートスポンサード」と呼ばれる、国家を背景とした攻撃者によるものとされている。
 日本に対するサイバーエスピオナージにおける最古のものとしては、第三次小泉内閣の2005年10月に「小泉首相の靖国参拝を非難」というタイトルで実在の在米日本大使館員からのメールを装い、外務省職員数十名に送られたものらしい。それ以降も、2011年、2013年、2015年などピークをもちながら、継続的に我が国の政策や安全保障に対する諜報活動が継続されているとのことである。
 近年では、中国の第二期習近平政権発足の2017年秋以降、かつては台湾や南シナ海に関係するサイバーエスピオナージ活動を行っていた攻撃者が日本を攻撃するなど、攻撃者の活動自体にも変化が現れており、このような攻撃による被害低減や被害防止だけではなく、「どのような脅威が存在しているか」を把握するサイバードメインアウェアネス(サイバー状況把握)の重要性が増している。
 一方で、このようなステートスポンサードなサイバーエスピオナージに対しては、各被害組織による単独の対応だけではなく、攻撃の全体像を政府として把握し、我が国として攻撃国に対する対応も必要ではないか。本年6月7日に発表された内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)の「サイバーセキュリティ戦略(案)」に示されているように、「同盟国・有志国とも連携し、脅威に応じて、政治・経済・技術・法律・外交その他の取り得るすべての有効な手段と能力を活用し、断固たる対応をとる」ためにも、直近の攻撃状況だけではなく、いつから、どこへ、どのような攻撃が行われたか――を整理する必要があろう。また想定される攻撃者像の把握のために、国際情勢や地政学、対象国の体制などについてもサイバーセキュリティの文脈における重要な要素として理解を深めていく必要がある。
 このような攻撃の把握は、システムで発見することは困難で、各攻撃対象者自身による気づきや、攻撃痕跡情報による振り返りが必要である。またそこで確認された攻撃嫌疑情報を伝達するといった多大な手間を要するものであるが、我が国として「サイバー状況把握」を行うためにも、このような情報の利活用に各人が尽力するよう、サイバー諜報活動の実体と対処例を紹介していただいた。
 極東アジアにおける動性が活発な中、今後も周辺国からのサイバーエスピオナージは活発さを増すと予測される。安全保障や国際関係、政策のみならず、科学技術や知財に関わる情報窃取活動に対する対抗のためにも、不審メールがあった場合はJ-CRATのみならず警察、防衛省、公安調査庁など政府におけるサイバー状況把握のために情報提供することが重要であると、青木氏は語る。
 因みに、J-CRATでは「標的型サイバー攻撃特別相談窓口」が準備されている。まずは気軽に相談してみることをお勧めしたい。

テーマ: 「我が国の政策や安全保障を脅かすサイバー諜報活動の実態とその対処例」
講 師: 青木 眞夫 氏((独)情報処理推進機構(IPA)サイバーレスキュー隊長)
     伊東 宏明 氏(同上 副隊長)
日 時: 平成30年7月6日(金)14:00~16:00

第115回
「習近平主席の防衛戦略と人民解放軍について」

  長野禮子 

 第115回「Chat」は、JFSS顧問の古森義久氏のご紹介で、米国よりラリー・ウォーツェル氏をお招きし、5月25日に開催した。ひと月以上も経って、やっと報告を書いている次第である。この間、我が国でとりわけ注目されたのは、北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)に向けての米朝首脳会談の行方と、その仲介役を内外にアピールしている韓国の文在寅大統領、それに中国がどう絡んでくるかであった。
 これまで韓国は何度も南北融和実現を目指し首脳会談を行ってきたが、結局は北朝鮮への経済支援に利用されただけで、国際社会に対しても北朝鮮は「約束不履行する国、信用できない国」と認識させてしまうことになった。今回もその国柄を裏付けるかのように、金正恩委員長の訪中以降の北の主張や対応の変化が影響したのか、トランプ大統領は5月24日、6月に予定されていた米朝首脳会談の中止を発表した。ところが半日も経たないうちに「首脳会談を行う」となった。 
 朝鮮半島に関わる問題は、常にリスクが伴い確実性の低いものだという証左として、改めて国際社会も受け止めたことだろう。日本は安倍首相とトランプ大統領の信頼関係を軸に、それに絡む中国、ロシアの思惑を念頭に外交戦略をどう立て、どう乗り切るかが今後の課題として大きな問題となろう。
 斯くして、「米朝首脳会談」は6月12日、シンガポールで行われた。初会合に臨む両首脳は、これまでの敵対、制裁の顔を忘れ、実に融和的な表情で進められたように見受けられた。
 今回のゲストであるラリー・ウォーツェル氏は元米陸軍大佐。北京勤務は2回、アジア太平洋地域の事情にも精通していることから、次の5項目について詳しくお話いただいた。

①習氏は、台湾海峡危機、天安門事件時に重要な任務に携わる
②習氏の出発点と軍との絆構築 
③軍拡を背景としたアジアにおける覇権戦略(中国の秩序によって「中国の夢」実現を謀る) 
④中国の軍事力(特にミサイル) 
⑤日米協同で統合運用司令部を作る

 中国の核心的利益と言って憚らない南シナ海での暴挙は、最早後戻りできない状況にあり、着々とアジアの覇権を手に入れようとしている現実を改めて認識するものであった。米朝首脳会談後の米韓共同訓練の中止が決定されたが、このまま南北融和が進むことによる朝鮮戦争終結、在韓米軍の撤退等々が現実のものにならないとも限らない。その時、我が国はどういう戦略で臨むのか、最悪の状況を想定し、正に今「国難の時」であることを、我々国民は強く認識すべきであろう。

テーマ: 「習近平主席の防衛戦略と人民解放軍について」
講 師: ラリー・ウォーツェル 氏(米中経済・安全保障調査委員会(USCC)委員・元ヘリテージ財団外交政策防衛担当副総裁)
通訳・解説: 古森義久 氏(JFSS顧問・麗澤大学特別教授)
日 時: 平成30年5月25日(金)14:00~16:00

第114回
「日本の人口減少と自衛隊兵力の問題」

  長野禮子 

 安倍首相の憲法改正に向けての取り組みを阻止しようとする野党の攻撃は、森友・加計問題に見るように年を跨いでの追及が続いている。更に「文書改竄」「日報」問題と今後また何が出てくるのかと辟易する。
 中国の挑発や脅威、北朝鮮の核・ミサイル問題解決への日米、国際社会との足並みを揃えての戦略など、喫緊の安全保障問題を脇に置いて、連日口角泡を飛ばすが如くの安倍首相批判を繰り返す姿は、国政を担う政治家としての品格はなく、その使命を果たしているとは断じて言い難い。野党は何を目指しているのだろうか。安倍政権を倒閣に追い込めばこの国難ともいうべき事態を解決できるとでもいうのだろうか。

 今回はロバート・エルドリッヂ氏をお招きし、少子高齢社会に突入している我が国の人口減少と自衛隊兵力の問題についてお話いただいた。以下14の提案を紹介する。
1、 給料のアップ(予算の天井の存在)
2、 隊員、職員の仕事の効率化(限定的な効果しか期待できない)
3、 定年の引き下げ(能力の低下に繋がる)
4、 採用条件の引き下げ(能力の低下に繋がる)
5、 予備自衛官の拡大(即応対応性の維持が課題)
6、 技術の導入(予算の限界、運営する上での人材不足、民間企業との競争加熱)
7、 女性自衛官の倍増(子供を産めなくなる女性増の可能性)
8、 海外の任務を削減(国際安全保障の低下)
9、 米国による安全保障に一層依存(代わりに米のコミット増加に繋がる)
10、集団安全保障機構の構築(米のコミット増加に繋がる)
11、限定的核抑止力(核の拡散の問題発生、通常戦争の対応など)
12、徴兵制度(憲法第18条解釈疑義、士気・質の問題)
13、契約会社、外国人軍人の採用(忠誠の問題)
14、自衛隊内、日米の基地の整理縮小、統合運用、相互運用性、共同使用など

 氏は以上の提案を述べた上で、人口減少の速度は「想定外」のペースで進んでおり、その深刻さは津波のように押し寄せ、日本国内のみならず、世界に影響を及ぼすことを忘れてはならないと指摘した。安倍首相が唱える憲法9条における自衛隊を明記し、国際世論に通用する軍隊としての名誉と誇りを持ち活躍できる環境を作ることが、ひいては日本の国土防衛に繋がるということを、国民皆が認識する時ではないか。


テーマ: 「日本の人口減少と自衛隊兵力の問題」
講 師: ロバート・D・エルドリッヂ 氏(JFSS上席研究員・政治学博士・元在沖縄海兵隊政務外交部次長)
日 時: 平成30年3月8日(木)16:00~17:30

第113回
「平昌五輪後の米国の対北政策」

  長野禮子 

 2月9日開幕の平昌五輪、その開会式に際し、韓国の文在寅大統領は一貫して慇懃なまでの親北対応を見せつけた。一方、安倍首相とペンス副大統領の、淡々とした態度で臨んでいる姿は、実に対照的であった。金正恩の妹・金与正の「ほほ笑み外交」に満足げな文氏は、北の核・ミサイル問題で国際的制裁を科している日米を始めとする諸外国にとって、とても褒められた外交には見えなかったことだろう。更に驚くのは、文大統領が閉会式に北朝鮮の党副委員長(工作機関トップ)の金英哲の出席を許したことである。この金英哲は対韓国政策を取り仕切る党統一戦線部長も兼ねている“テロの元締め”と言われている人物である。しかし、文氏は韓国内での反発を無視し、親北姿勢を崩さなかった。
 ペンス副大統領は帰国後の2月22日、メリーランド州の保守派の集会で、金与正を「悪の一族だ」と強く非難し、北がアメリカや同盟国を脅かすのをやめて、核・ミサイルを放棄するまで断固とした態度を取り続けると述べた。
 韓国の北融和政策を利用する北朝鮮の思惑は、過去を振り返らずとも見え見えである。こうした中で、4月末に向けた南北対話の準備は進められ、場合によっては米国を加えた首脳会談になる可能性もあるようだ。米国はあくまでも北の核・ミサイル開発を止めさせ、核放棄を迫る。米韓軍事演習は4月に延期されたが、韓国がこれ以上渋るようなことになれば、米韓関係に亀裂が入るだろう。米朝対話がもし実現するとしても、米国の基本的立場は変わらず、今回の五輪開催が米朝の緊張緩和に繋がることは考えられない。もし北が核・ミサイル放棄を認めなければ、取り上げるしかなく、米国の先制攻撃の可能性は十分にある。6者協議のような偽善的政策は最早現実的ではない――とメア氏は語る。
 米国は今先制攻撃のタイミングを計っているという。これがもし現実のものになった時、日本はどのような対応をするのか、その準備はできているのか。東アジアの安全保障は保たれるのか。
 韓国でのオリンピック開催と言えば1988年のソウル五輪の前、北朝鮮が五輪開催妨害を目的としたと言われた大韓航空機爆破事件が思い出される。今回は「ほほ笑み外交」の正にその裏で、北は韓国政府、韓国大企業等へのサイバー攻撃を繰り返していたことが分かった。これまでの北の対米、対韓、対日戦略の実態を踏まえ、今後の動きを冷静に見届けることは勿論、同じ轍を踏まないよう今度こそ厳しい対応で朝鮮半島の非核化を実現してもらいたい。

テーマ: 「平昌五輪後の米国の対北政策」
講 師: ケビン・メア 氏(JFSS特別顧問・元米国務省日本部長)
日 時: 平成30年2月23日(金)15:30~17:30

第112回
「我が国の防衛産業とその課題」

  長野禮子 

 2014年4月、安倍内閣により「防衛装備移転三原則」が新しく制定された。これで長年の「鎖国」状態が解き放たれ、日本の防衛産業も一気に世界に羽ばたくことができると期待したものである。しかし、4年目を迎える今、その期待に応えている状況には決してない。
 今回は未来工学研究所の西山淳一氏をお招きし、現在の日本の防衛産業はどういう状況にあり、その課題は何かを詳しくお話いただく。
 日本の防衛産業の規模は我が国の工業生産額の僅か0.7%であり、非常に小さい。また、大手企業における位置付けは全体事業の一部であり、重工業で10%、電機企業で2~3%程度である。
 我が国は、戦後長く続いた「武器輸出三原則等」による武器輸出禁止の呪縛からまだ解き放されていないために、国際競争に晒されることもなく現在に至っている。つまり、武器輸出に関しては「思考停止」状態を続け、ある意味「鎖国の平和」を享受してきたのである。企業が防衛事業を「リスク」だと考え、「マイナスイメージ」だと思っているうちは発展は望めない。今こそ企業のマインドを変えていく必要がある。
 国内においては他の産業で産業再編は起きてきたが、航空宇宙・防衛産業では欧米において行われたような大規模な産業再編は行なわれなかった。今後、日本も防衛産業強化のためには再編を考えるべきではないか。
 従来、イノベーションは米国DARPA主導で行なわれ、軍事技術の民間への波及という形で進んで来たが、昨今は民間技術の発展のスピードが凄まじく、いかに民間の技術を軍事に取り込むかが大きな流れになっている。そのためには中小メーカーの技術を発掘する必要がある。米国ではDIUx(実験的・防衛イノベーションユニット)を開設し、シリコンバレーなどの民間技術を取り込もうとしている。日本もそのような活動を考えるべきである。
 一方、開発した先端技術を守るという意味で技術情報管理は避けて通れない。防衛省は防衛秘密に関しての管理を行っているが、政府横断的な管理が出来ていない。DSS(国防保全局)に相当する機関がない。また、秘密特許制度がないのも問題である。国家としての機密情報管理はファンダメンタルな機能だ。
 技術的にも技術情報流出防止の方策を考える必要がある。供与する技術の選定手法、基準の確立、そのためのブラックボックス化の手法を考える必要がある。ブラックボックス化に当たっては、その技術の確立と費用負担の明確化が必要である。民間会社ではエリーパワー(リチウムイオン電池の会社)のように自ら技術流出を防ぐため工場全体のブラックボックス化を行っている会社もある。
 日本が長らく行ってきたライセンス生産の時代は終わった。新しい事業形態を考える時に来ている。外国企業の買収や日米JV(ジョイントベンチャー)会社方式もあるだろう。国際競争の場に出て行くためにどうすべきかを考えるべきではないか。
 昨今、日本企業の信頼度を失うようなスキャンダルが続いているが、その信頼性を回復することが急務である。
 日本には「技術」がある。中小メーカーの幅広い技術を発掘し、新しい技術に挑戦すべきだ。技術者は新しいことに挑戦しなくなったらおしまいである。誇りをもって防衛事業に取り組んでいただきたい。

テーマ: 「我が国の防衛産業とその課題」
講 師: 西山 淳一 氏(JFSS監事・元三菱重工㈱航空宇宙事業本部副事業本部長)
日 時: 平成30年1月26日(金)14:00~16:00

第111回
「沖縄の基地政策―これでいいのか」

  長野禮子 

 沖縄は普天間基地の移転問題を始め、米軍のヘリコプター墜落や部品の落下など、様々な問題が山積している。基地政策を考える上で大事なことは、日本は『政策』、アメリカは『運用』、沖縄は『政治』の視点から、これらをどのように結びつけるかについて検討することである。米政府も基地と自治体と住民との交流を深め、普天間に駐留する米海兵隊がどのように活動し、沖縄や日本の安全保障に貢献しているかについて可能な限り開示して行くことを試みている。活動の透明性が進むことで、住民の基地への理解が深まり、不安が払拭されてくると期待したい。特に米国(ホワイトハウス)は事実論と感情論の乖離を理解し、基地政策に取り組んで行く必要があるだろう。
 また、住民との信頼関係を築くには長い時間がかかる。米軍の規則では5年以上の連続した海外勤務ができないことになっているが、この規則を在沖米軍に一律に適用することは妥当ではない。頻繁に担当者が交代するのではいつまで経っても基地の重要性を理解し合える日は来ない。
 日本には、海兵隊に相当する軍種がなく、現在陸上自衛隊が担当。在普天間基地海兵隊のカウンターパートは陸自西部方面隊である。このため、日米間で調整等を行う際の物理的障壁となることは否めない。因みに、陸海空軍については、いずれの司令部も関東地区に置かれスムーズな調整が可能である。
 止むことを知らない中国の挑発や北朝鮮の核・ミサイル問題を突き付けられている今、こうした指揮系統の問題は国家の根幹を揺るがしかねない大問題へと発展する可能性を秘めている。直ちに再考されるべきであろう、とエルドリッヂ氏は指摘する。

テーマ: 「沖縄の基地政策―これでいいのか」
講 師: ロバートD・エルドリッヂ 氏(JFSS上席研究員・政治学博士・元在沖縄海兵隊政務外交部次長)
日 時: 平成29年12月8日(金)15:30~17:00