Key Note Chat 坂町

第172回
「中国の対日海洋戦略」

長野禮子
 
 今回は、中国の海洋戦略研究の権威である、トシ・ヨシハラ氏を6年ぶりにお迎えした。
 中国の海洋戦略により、中国海軍は「高度の通常戦争」を行うことができるようになった。海洋における最も重大な挑戦である。10年前には考えられなかったことだが、現在、中国海軍の攻撃によって日米の艦隊や航空部隊は重大な被害を蒙り得るとして、以下4つのポイントを挙げた。
 
①中国から見た海洋の地理
 中国の戦略家が4つの列島線―第1(日本)、第2(グアム)、第3(ハワイ)、第4(米西海岸)―を語る時、米国はそれぞれの列島線から中国を攻撃することができる。第1列島線は、中国がコントロールしたい。
②積極的防御
 この戦略は1930年代に毛沢東が提唱した戦略に遡る。中国の敵(米国)は世界中様々な所から攻撃を仕掛けてくることができる。中国は自国が不利であることを認識している。中国は中国本土への攻撃抑止を考え、できるだけ本土から離れた所で敵と戦おうするが、周辺国からは侵略と見える。
③ミサイル時代到来の戦略的意味
 戦術的(短距離の)側面では中国側は今距離を延ばしている。実際、米海軍が中国に反撃しようとする時、中国側の射程の中に入っていかなければならない。加えて、中国は戦闘で優位に立つ為に先制攻撃を考えている。これは米中双方に言えることで、このドクトリンは将来重要になってくる。現在、中国は米海軍のどの艦艇を標的にするかを研究している。
④ロジスティクス(兵站)攻撃
 「情報化された戦争」では敵味方の様々な兵種が複数の領域(陸・海・空・宇宙・サイバー)で戦闘を行い、両軍とも膨大な被害を蒙る。ウクライナ戦争に見るように、兵站が脆弱=弱点となることは中国も認識している。
 「ハード・キル」と「ソフト・キル」、つまり、ハード・キルは物理的に敵の能力を破壊することであり、ソフト・キルはサイバー、宇宙空間を用いて指揮・統制のコミュニケーションを妨害することである。中国も標的を2つに分類する。第1は前線の戦闘用の艦艇・航空機などで、第2は後方の戦略的、作戦的な拠点、即ち、敵の指揮・統制、兵站、防衛産業基盤などだ。当然、この2つは緊密に関係しており、果実と蔓の関係である。
 
 中国は第1列島線の海に面した兵站施設の攻撃を考えている。日本は最大の標的であり、その中に、横須賀、佐世保、嘉手納などの基地が含まれる。また、中国は「本土防衛」とは全く別の戦略として、中国軍のグローバル化を図るため、遠征できる外洋型海軍の艦艇(空母・補給艦・駆逐艦・巡洋艦)を増やしており、戦略の結果として、ジブチなどに進出している。中国海軍は西太平洋に限らず、インド洋、南太平洋でも脅威となりつつある。だが、米国や同盟国はこの脅威に対して真剣に対処してこなかったとヨシハラ氏は締め括る。
 
《補足》日本の新戦略3文書について
 日本が長射程のミサイルを持つことは、長年の不均衡を是正し、均衡に戻す働きがある。戦術的なバランスが正しい方向に向かうだろう。サイバー、宇宙の防衛力強化を打ち出したのは重要だ。米国は日本が常設統合司令部を設置することに期待している。
テーマ: 「中国の対日海洋戦略」
講 師: トシヨシハラ 氏(前海軍大学教授・現戦略予算評価センター(CSBA)上級研究員)
通 訳: 古森義久 氏(JFSS顧問・麗澤大学特別教授)
日 時: 令和5年6月28日(水)14:00~16:00

第171回
「『令和5年版(第66号)外交青書』の説明会」

長野禮子
 
 『外交青書』(以下、青書)は昭和32(1957)年から毎年発行され、「日本外交に対する国民・諸外国の理解を深めることを目的とし、日本の①外交活動 ②国際情勢認識 ③外交政策を記述」したもので、今回で66号となる。
 外務省から横田直文氏をお招きし、『令和5年版外交青書』についてご説明いただいた。
 
外交青書の意義
 青書は2022年を「国際社会は歴史の転換期にある」と位置付けている。ロシアによるウクライナ侵略によって「国際社会の揺らぎ」が起こり、以前から生起しつつあった厳しい国際環境と相俟って、「我が国をめぐる戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」が現出したことを意味するとある。
 今年3月、岸田総理はG7で最後となった日本のウクライナ訪問を果たした。国際社会に対し我が国の立場と認識を旗幟鮮明に示したことは大きな意義を持つ。まずは民主主義国家としての役割を果たしたと言える。
 
国際情勢の認識
 青書に「歴史の転換期にある国際社会」という言葉が初めて用いられた。世界は今、「ポスト冷戦期」が幕を下ろし、戦後築いてきた国際秩序、価値観、人権等々が近年新たな局面として顕在化し、多様かつ複雑に絡まり、次の時代が見えて来ない。
 「ポスト冷戦期」から30余年の光と影を追ってみると、90年代の自由で開かれた安定的な国際秩序の拡大であり、それを前提とした経済のグローバル化と相互依存が進み、世界は国際協調に向かうであろうとの楽観論が多勢を占めた。そこには科学技術の進展やインターネットの普及、人・モノ・カネ・情報が国境を越えて動くという「光」の現象が生み出された。
 だが、それらの動きは新興国・途上国の台頭によってパワーバランスが崩れ、国家間競争の激化をもたらした。さらに、米中対立に見るように、既存の秩序への挑戦、力による一方的な現状変更を試みる勢力が臆面もなく出てきて、その正当性を押し付けようとしている。協調と対立が複雑に絡み合う状況へと変化していったのである。正に拡大した光の裏にある「影」、翳りが広がりを見せてきた。
 ポスト冷戦期の問題が、ロシアのウクライナ侵攻により顕在化し、加速化し、拡大した。新興国がものを言うようになり、グローバル・ガバナンスが難しくなってきた。最早、国際社会が1つの価値観の下に収斂することが困難な時代になった。この問題解決には、多国間主義の下、価値観や利害の相違を乗り越える包括的なアプローチで、新興国などとの連携が求められるが、覇権主義を推し進める国家群に効き目のある対策を立てるのは容易ではない。
 
日本外交の展望
 青書の周辺国に対する表現として、ロシアは「中国との戦略的な連携と相俟って強い懸念」、北朝鮮は「従来よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、中国は「これまでにない最大の戦略的な挑戦」とした。また、「台湾海峡の平和と安定の重要性」という文言も多く用いている。これは、青書の戦略的コミュニケーションとしての側面である「中国の外交当局に日本の意志を読み取らせる」ことを意図している。同時に、日本が法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に取り組むというメッセージであり、価値観を共有する同盟国・同志国との連携を強化していく意志の表れでもある。G7や日米豪印(QUAD)の枠組がこれに当たる。
 自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の推進も、重要な日本外交の旗印だ。ルールに基づく自由で公正な経済秩序の拡大は極めて重要であり、CPTPPに見るように、日本は自由貿易の旗振り役としてリーダーシップを発揮する意志を持つ。さらに、今次のロシアによるウクライナ侵略に見る国連の機能不全に対する問題も重要である。日本は、今一度国連憲章の理念と原則に立ち返り、安保理改革を始めとする国連の機能強化に積極的に貢献しようと考えている。
 「歴史の転換期」を生きる我々も、外務省が今後どのような時代を目指し、世界に向けての日本外交を展開し、発信していくのか、注目していきたい。

 

テーマ: 「『令和5年版(第66号)外交青書』の説明会」
講 師: 横田 直文 氏(外務省総合外交政策局政策企画室長)
日 時: 令和5年4月26日(水)14:00~16:00

第170回
「勃興する中露の民間軍事会社(アフリカ編)」

長野禮子
 
 今回は危機管理コンサルタントとして、パプアニューギニアやアフリカ等で長年テロ対策や対人警護、犯罪予防、治安情報の収集分析等に携わりセキュリティマネージャーとして豊富な経験を持つ丸谷元人氏をお招きした。以下、氏からの報告の一部を記す。
 2019年2月、アメリカ・アフリカ軍司令官のトーマス・ワルドハウザー将軍(当時)は、米上院軍事委員会の公聴会で「中国人はアフリカにカネを持ち込み、ロシア人は筋肉を持ち込む」と述べた。
 近年、ロシアはアフリカ諸国の反仏感情をうまく利用し、その影響力を増大させている。その方法として、ワグナー社(露民間軍事会社)を利用した傭兵、武器と資源の取引、不透明な契約、偽情報を多用したSNS等での心理戦や、影響力を行使するための非合法な手段が屡々見られる。しかし、ロシアは他国と異なり、アフリカに対する経済投資、貿易、安全保障支援は行っていない。経済的見返りは、石油やガス、金、ダイヤモンドといったアフリカ大陸の膨大な天然資源への優先的なアクセスである。戦略的には、地中海東部での足場確保、紅海での軍港アクセス、天然資源採取機会の拡大、欧米の影響力の排除等が考えられる。
 一方中国は、2013年からの「一帯一路」政策以降、金銭的にも大規模な投資を行ってきたが、軍事プレゼンスについてはできるだけ見せない姿勢を維持してきた。シーレーンの安全確保とアフリカにおける「クィック・レスポンス能力」確保のため、ジブチにおいては軍事基地を展開したが、最近では、民間軍事会社が活用され始めている。
 それに対するフランスの反発は激しい。フランスはセネガル、マリ、コートジボワール等14のアフリカ諸国に対してCFAフランによって間接的経済支配を敷いてきた。14諸国は、CFAフランを「事実上の植民地支配」として反発し、自国通貨の導入を目指したが、その時の国家指導者の多くは不慮の死を遂げてきたという。通貨以外でも、仏政府による天然資源購入の優先的権利・仏企業の契約及び入札の優先・仏製兵器の独占的販売・仏軍の駐留と軍事介入の権利・年資材状況報告の義務・仏政府の許可なしに他国との軍事同盟の禁止・海外の戦争には常に仏軍に従うこと・公用語(教育も)は仏語とする等、独立国としての地位は与えられていない。
 かつてジャック・シラク元仏大統領は「アフリカを失えば、フランスの国力を第三世界の水準まで落とすことになる」と言ったそうだが、毎年56兆円とも言われるアフリカマネーは、まさにフランスの生命線として維持されているということである。フランスにとって中露の浸透は脅威だが、現地人はこれを歓迎しているらしい。
 最近では中央アフリカで未確認飛行物体によるワグナー社への攻撃が行われ、また中国企業が操業する同国の金鉱では、同国大統領の中国接近というタイミングで複数の中国人労働者が謎の武装集団によって殺害されるという事件が起きているそうだ。
 このような状況下で、中露は共に自国民の保護と自国権益の確保(特に地下資源へのアクセス)の観点から、民間軍事会社の強化に力を入れている。アフリカは最後のフロンティアであり、日本にとっても重要な地域である。日本は官民共にセキュリティに対する意識が桁違いに低く、専らセキュリティ会社に依存することで「安心」を買っているが、このままでは資源獲得競争に完全に後れをとることになるだろう。
 丸谷氏の話で遠いアフリカと未だ植民地政策を続けるフランスの国柄を知った。先のマクロン大統領訪中におけるウクライナ戦争、台湾有事に対する発言も西側諸国で物議を醸しているようだが、これも国益優先の一環としてはやむを得ないということか。
テーマ: 「勃興する中露の民間軍事会社(アフリカ編)」
講 師: 丸谷 元人 氏(JFSS政策提言委員・危機管理コンサルタント)
日 時: 令和5年4月10日(月)15:00~17:00

第169回
「首脳会談後の日韓関係」

長野禮子
 
 3月16日、韓国の尹錫悦大統領が来日。戦後最悪と言われる日韓の冷え切った関係打開に向けて約5年ぶりに首脳会談が行われた。今回は韓国事情に最も詳しい元駐韓大使の武藤正敏氏をお招きし、これまでの経緯をおさらいしながら、今後の日韓関係についてお話し頂いた。
 韓国人の歴史観は「期待や願望」が優先された「歴史」と言われる。「竹島」「従軍慰安婦」「強制連行」「強制徴用」、また、安全保障では「レーダー照射」問題等々が日韓両国の関係を難しくしてきた。
 今年の3・1独立運動記念日の演説で尹大統領は日本を「軍事的侵略をする国ではなく、協力のパートナー」だと述べた。歴代大統領の発言にはなかったことである。これは政治に「反日」を利用しないという尹氏のメッセージと受け止める。日本側は1965年の日韓基本条約で「解決済み」との立場を堅持し、首脳会談を受け入れ、「改善」への一歩とした。これが観測気球の役割を果たし、韓国では今回の所謂、徴用工問題の解決策も「日本に譲歩した」との批判もあったが、支持率の下落幅は2‐4%と小さく、韓国メディアは、「苦肉の解決策」だと評した。元徴用工を支援する市民団体や弁護士会は「解決はビジネスの終焉」を意味することから猛反発しているが、最近では反日集会に参加するより、日本旅行を楽しみたい若者が増えているらしい。
 尹氏はまた教育・労組改革にも乗り出し、最強硬労組である貨物連帯のストを収拾した。韓国の左派には朴正煕政権下で弾圧された40~50代の人々や親北政策に影響された人々が多く、彼らは今、各界の幹部となっているが、かつての日本製品不買運動や訪日自粛運動の頃の雰囲気はなく、随分様変わりしているようである。経済悪化と親北政策を進めた文政権への反発もあり、若者達は北朝鮮を同胞とは見ていない。これが尹氏支持となったようだ。
 今回の首脳会談は、「失われた10年」の関係回復の出発点と評価する声が多い。「ちゃぶ台返し」をされてきた日本としては、どれほどの信頼を置くか疑問視する声もあるが、それをさせないためにも日本企業2社が「未来パートナーシップ基金」に協力し、中長期的に考えれば、尹政権をサポートした方が良いと、武藤氏は語る。尹氏にとって3月訪日、4月訪米、5月のG7開催前に解決したい思惑もあり、「国益」を重視した外遊が続く。
 今後、日韓のシャトル外交の復活により、懸案事項解決に向けての協議が重ねられることで、東アジアの平和と安定に積極的に取組んで行くことが双方の国益に繋がることは誰もが理解する。“歴史”は「期待や願望」「好き嫌い」で語るものではないことも韓国に理解していただきたいものである。
テーマ: 「首脳会談後の日韓関係」
講 師: 武藤 正敏 氏(JFSS顧問・元大韓民国駐箚特命全権大使)
日 時: 令和5年3月22日(水)14:00~16:00

第168回
「『防衛3文書』と今後の日米同盟」

長野禮子
 
 今回は前回に引き続き「防衛3文書」が閣議決定されたことによる米国の見解と今後の日米同盟について、元米国務省日本部長のケビン・メア氏にお話いただいた。以下、メア氏の講演内容の概要を記す。
 
米国「防衛3文書」歓迎
 米国は日本の安全保障政策が以前より現実的になったことを歓迎。「防衛3文書」は、2012年に発足した第二次安倍政権から引き継いだものであり、当時の安倍総理を始めとする菅官房長官、岸田外務大臣、小野寺防衛大臣で取り組んでいたことから、岸田政権で閣議決定されたことの意義は極めて大きい。岸田総理はパシフィスト(平和主義者)のイメージを持たれているが、今回このことが奏功し、目立った反対の声が出なかった。もし安倍政権だったら大変な反対が起きただろう――。
 米国では「防衛3文書」により、ワシントンD.C.での日本の地位とイメージは確実に上がった。これまで日本は米国のパートナーとは言えない部分もあったが、今、日本の反撃能力保有に反対する者はなく、寧ろ日本への期待が増している。「防衛3文書」では、日本が東アジアの平和と安定に寄与することが謳われているが、これは日米安保条約第6条の米国の負担だったものだ。日本の変化を米国は歓迎している――。
 
防衛費増額について
 GDP比2%。5年間で43兆円はいい意味で驚きだった。財務省が台湾有事が実際に起きた場合の経済的混乱を想定し同意に至ったことを評価。
 
統合司令部設置
 1月の日米2+2における最も重要な点は、日本が常設の統合司令部を設置することであり、米国がこれを歓迎したことだ。現在この司令部をいつ、どこに発足させるかが注目されているが、たとえ始めは小規模であっても、肝心なのはスピーディに対処し、設置を急ぐべきだ。米国のインド太平洋軍司令部と日本の自衛隊は共同して調整・運用していくべきところを、これまではインド太平洋軍司令部のカウンターパートが日本側になかった。今までは抽象的なことを言って済ませてきたが、これからは戦術、役割分担など、Battle Management(戦闘管理)の観点から具体的な調整が必要となり、綿密に調整しないと効果は得られない。これは実際のWar Fightingに必要であり、政治や行政の問題ではない。現在設置場所の検討が行われ、市ヶ谷が有力視されているが、横田の方が適当だろう。戦いはプロに任せた方がよい。
 
継戦能力維持の重要性
 特に半導体やレアアースのサプライチェーンの確保が必要となる。同時に自衛隊の人員不足解消が重要である。米軍には住宅手当がある。また、復員軍人援護法があり、退役軍人を支援している。若者には、大学の費用を国防総省が負担し、若い兵士の募集に役立っている。金があっても人がいなければ国は守れない。
 
サイバーセキュリティへの取組
 サイバーセキュリティに関する取り組みは、日本もかなり進んできたが、セキュリティクリアランスが大変だ。日本の一番の問題は、専門的知識を有する人材の不足である。日本の警察が怪しい組織のコンピュータに入って行こうとしないのも問題である。
 
防衛装備移転3原則
 防衛装備移転3原則の変更は政治的に難しい問題だが、日本の覚悟を示すことになる。殺傷能力があるものは輸出できないというが、殺傷能力がないものを欲しがる国はない。その結果、防衛産業が伸びない上、防衛産業の高齢化も進む。日本政府はこれを支援し、次世代に繋げていく必要がある。民間企業の設備拡張はリスク高い。米国のように、政府が施設を持ち、運用は民間が行うという契約にすればよいだろう。
 
台湾有事への米国の取組
 「台湾」は米国内で特別な地位を得ている。台湾有事に米国は「関与しない」は、米国民が許さない。しかし、台湾に自国を守る覚悟がなければ、米国は支援しないだろう。
 
 今回の「防衛3文書」で日本は国際社会にその覚悟を示した。緒についたばかりの3文書をこれからどう具現化し実行するかが問われる。米国を始めとする西側諸国の期待と信頼に応えるべく、国民の理解を背景に「普通の国」への歩みを力強く進めていただきたい。
テーマ: 「『防衛3文書』と今後の日米同盟」
講 師: ケビン・メア 氏(JFSS特別顧問・元米国務省日本部長)
日 時: 令和5年2月7日(火)14:00~16:00

第167回
「『戦略3文書』概要説明」

長野禮子
 
 昨年12月に閣議決定された「防衛3文書」は冷戦期以降初の日本の安全保障政策の大転換として、国内外で高い評価を得ている。今回の岸田総理の欧米5ヵ国歴訪(1月9~15日)では、仏・伊との2+2開催を取り付け、英国では日英伊との次期戦闘機開発の確認、英国との「円滑化協定」署名、カナダでの「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けての連携強化等、総理訪米直前の日米2+2では「宇宙協力協定」の署名などが報じられた。岸田総理訪問に際し、バイデン大統領は「日本の果敢なリーダーシップ」を称え、全面的支持と日米同盟を「現代化」すると言明、首脳会談では「日米同盟の抑止力と対処力を強化する」と国内外に表明したとの報道が続いた。5月開催のG7サミットの議長国として関係国との更なる信頼関係を深めたようである。 
 
 今回は安倍元総理の信頼篤く長きに亘り安倍政権を支えて来られた前防衛事務次官の島田和久氏をお招きし、「防衛3文書」作成に当たり、その経緯や概要をお話いただいた。
 冒頭、島田氏は、3文書の所感として、ここに至るまで約10年を要したが、「防衛省は目覚めた」と述べ、以前の防衛省とは明らかに違うという見方を示した。ただ、「まだ目覚めたばかり」であり、引き続き課題解決に向けての努力の必要性も併せて説いた。
 その1つが、防衛省には必要最低限の防衛力保持を謳う基盤的防衛力構想の呪縛が残っており、これが染みついているということである。防衛予算についてはまず財務省に相談してから官邸に持って行くというカルチャーが存在してきた。予算の概算要求にはシーリングがあり、それを超える予算要求はできないということである。
 今回、自民党は予算のシーリングを外した。それを衆参の選挙の公約に掲げ、民主的かつ透明性のある手続きを踏んだ。43兆円はその結果であった。特に安倍元総理が率いた清和研は独自の提言をまとめ、48兆円を提示し、議論を引っ張った。また、自民党は「反撃能力」も選挙公約に掲げた。これにも清和研の提言が大きく貢献した。野党やマスコミが言う「唐突」な閣議決定などでは決してない。
 しかし、「目覚めたばかり」の防衛省には、予算の積み上げ、自衛隊の人員不足、法整備の後れ、非核三原則、防衛産業維持等、問題は山積している。
 それらを踏まえ、岸田総理は「現実の脅威に対応するのに必要」な防衛力を持つと明言した。総合的包括的抑止(DIME)、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有、NATO並みの防衛費GDP比2%――は、防衛力を抜本的に強化する日本の「国際公約」となり、今その覚悟と責任を示したということである。
 「防衛3文書」はこれから血液を循環させ、筋肉を付け、実践に備えるべく具体的な作業に入る。刻々変化する安全保障環境に対処すべく十分な抑止力と強靭な国家としての総合力を付ければ、それを背景とした外務省、日本外交はこれまでにない大きな支えを得ることとなり、バランスの取れた先進国としての信頼はさらに高まるであろう。洋々たる船出の日に期待したい。
テーマ: 「『戦略3文書』概要説明」
講 師: 島田 和久 氏(JFSS顧問・前防衛事務次官)
日 時: 令和5年1月18日(水)15:00~17:00