Key Note Chat 坂町

第138回
「日台の歩みと今後の日台関係」

長野禮子 
 
 
 今回は、前日本台湾交流協会台北事務所代表の沼田幹夫氏をお招きし、日台関係の歩みと将来についてお話を伺った。
 日本と台湾の「中華民国」は1972年の断交以来、外交関係は無くなったが、経済、文化などの実務関係は益々発展している。一方で、特に安全保障や政治面において日本は常に中国の顔色を窺いながらの外交を余儀なくされ、アジアを取り巻く情勢で一番の問題である対中関係をどのように維持運営していくかということが命題となっている。
 台湾はかつて、政権の主要メンバーは外省人で占められ、本省人は李登輝氏他数人しかいなかった。1996年以降、それまで国民党一党独裁下にあった台湾の自由化、民主化に努めた李登輝総統の功績は多岐にわたり、20世紀初頭の大政治家としてその名は今も健在であり、ステーツマンと言われる最後の人とも言える。
 当時の台湾には、国民大会代表という人達がいて、大陸や新疆ウイグル、チベットなどの代表約800名が永久的に国会議員として身分も生活も保障されていた。李氏はその全員に500万元を渡して引退させるという大事業を果たし、教育現場ではそれまでの中国史から正しい台湾史を教える教育改革を実現した。
 一方、1972年以降の日台との覚書(条約に相当)は全部で64本。そのうち馬英九政権時代(2008‐2016)の8年間で28本。今や日台の相互往来は700万人を超える時代となり、オープンスカイ、投資保護、租税、漁業などに関する協定を締結したことは大きく、将来を見据えた基礎となっている。その約半分が馬英九政権時代に締結されている事実をどう解釈するか・・・。馬英九を評価してもいいのではないか――と氏は語る。
 2016年、蔡英文政権誕生。この選挙で民進党は、行政権と立法権を掌握することができた。この結果は日本としても歓迎するものであり、当時、日台の一番の政治的課題であった福島県産の輸入品規制撤廃も間違いなく解消されると思っていたが、結局果たされず、蔡英文という政治家に疑問符がつく状況となった。
 とは言え、昨年6月頃からの香港デモ騒動で蔡英文の支持率は急上昇。1月の総統選挙では、国民党の韓国瑜に大差をつけ、蔡英文は再選された。米国はここ数年で台湾旅行法を作り、F16も売却するなどの支援をする一方、日本へのリクエストである「潜水艦技術を移転」「防衛大学校への台湾留学生を受け入れ」に応える状況は、今の日本にはない。
 氏はかつて李氏から3度、「日本への片思い」の話を聞いたと言う。台湾が台湾であり続けることが、日本の幸福であることに変わりはなく、今後も日米同盟を基軸とした外交政策で進むことが正しい選択であることに間違いはない。その取り組みが具体化しない大きな要因は、依然日中の政治問題が横たわるからである。経済最優先を続ける以上、政治的解決は遠のく。習近平主席の国賓招待断固反対を表明した本フォーラムは、今を好機と捉え、安全保障をも含めた日台関係の更なる深化のために、安倍首相の「政治力」に期待するものである。

 

テーマ: 「日台の歩みと今後の日台関係」
講 師: 沼田 幹夫 氏(前(公財)日本台湾交流協会台北事務所長)
日 時: 令和2年1月17日(金)14:00~16:00

第137回
「米国から見た日本の安全保障、日米同盟は不公平か」

長野禮子 
 
 
 今回は、ハーバード大学シニアフェローとして米国でご活躍の尾上定正氏をお招きし、米国の現状や米国から見た日本の安全保障について、以下4点についてお話頂いた。
 
1、トランプ政権についての認識

 トランプ政権は、トランプ氏の個人的な基準が国家の利害関係に直結していることから、政権に対する米国民の支持は二分されているが、トランプ大統領は根強い支持層を持ち、支持率40%を割り込まない限り再選は固い。一方で、2期目になると更にトランプ流になるので、なかなか厳しい局面が表面化するかも知れない。

トランプ政権の外交・安全保障について、新孤立主義の趣が強くなっている。“America First”は“Trump First”の意味で、矛盾する政策は功罪混交となり、結果的にマイナス面が表面化している。対中政策では強硬に見えるが、意外と習近平と上手くやっているのではないか。
 
2、対中政策について
 Huaweiの締め出しなど、米中争いの実態は技術覇権を巡る争いとなっている。その覇権争いに、否応なく日本も他国も巻き込まれる。日本の部品もHuaweiに買われているが、それをどうするかということになる。
 
3、米韓関係について
 日韓問題が米韓問題に飛び火してきている。現状は、戦時作戦統制権返還の第一段階にあり、これが返還されると米韓関係も変わる。習近平氏、金正恩氏、文在寅氏、トランプ氏の全員が一致しているのが、米軍の撤退だ。敵対的な核武装の統一朝鮮が出現することが一番の懸念であることから、これを阻止しなければならない。
 
4、日米同盟について
 米国の一般人には日米同盟についてはあまり知られていない。日米同盟は第5条でアメリカに依存する代わりに6条で基地を提供する、という非対称の関係で不平等にならないように双方で調整してきた歴史がある。それをトランプ氏は不公平と言い出した。それを是正するには、憲法と日米安保を一体で変えるしかないと思う。アメリカの有識者も危惧し始めている。日米両国の更なる国益調整の必要性が出てきていると言えるのではないか。
 
 今回を持って今年の「Chat」は終了とする。次回は令和2年1月に2回を予定している。今年も時宜に適ったテーマと講師をお迎えし多くのことを学ぶことができた。来年はさらに厳しい年となりそうである。白熱した議論を期待したい。
 
テーマ: 「米国から見た日本の安全保障、日米同盟は不公平か」
講 師: 尾上 定正 氏(JFSS政策提言委員・ハーバード大学シニアフェロー・前空自補給本部長)
日 時: 令和元年12月9日(月)14:30~16:30

第136回
「台湾問題と今後の日米韓関係」

長野禮子 

 今回は台湾訪問を終え東京に着いたばかりのエルドリッヂ氏を約1年ぶりにお迎えしての「Chat」である。氏の台湾訪問の目玉は、台湾総統府訪問と官房長代理クラスとの意見交換だった。意見交換ができたのは有意義だったが、結局は「アメリカはあまり行動しない」「日本は絶対に行動しない」ということで、忸怩たる思いを拭うことはできなかったようである
 そこで期待するのが日本版台湾関係法であると氏は言う。既に昨年の「正論」9月号で発表した「日本版台湾関係法を制定すべき」という氏の記事を取り上げ、今年1月、米国の台湾関係法成立から40年が経たことを踏まえ、日本も台湾関係法を制定すべきであると説く。安全保障における日台関係は正に「運命共同体」であり、JFSSもその立場に立って制定を急ぐべきとの意見は今に始まったことではない。しかし、この期に及んでも親中政治家の影響が強く、台湾重視の政治家の育成が成されていない事を氏は鋭く指摘する。総統府の懸念は、安倍政権で日台関係はより親密になったと感じているかもしれないが、10年前と比較すると全ての面で希薄になっているという点である。聞いた我々も驚いた。
 エルドリッヂ氏は、このほか米国の大統領選の行方や米軍駐留費の問題、韓国問題に触れ、出席者との活発な質疑応答が行われた。

テーマ: 「台湾問題と今後の日米韓関係」
講 師: ロバート D・エルドリッヂ 氏(JFSS上席研究員・元在沖縄海兵隊政務外交部次長)
日 時: 令和元年11月20日(水)14:00~16:00

第135回
『令和元年度版防衛白書』の説明を聞く

長野禮子 

 令和の御代を迎え、初めての防衛白書が出版された。本年度防衛白書の特色としては、昨年度に策定された新防衛大綱、新中期防衛力整備計画の内容について、コラムを交えながら紹介している。加えて、平成の防衛省・自衛隊を振り返る巻頭特集を掲載し、AR動画を活用しながら、当時の映像によって振り返ることが可能となっている。
 本編は、4部構成となっており、第1部「我が国を取り巻く安全保障環境」、第2部「我が国の安全保障・防衛政策」、第3部「我が国防衛の三つの柱」、第4部「防衛力を構成する中心的な要素」など、という内容となっている。
 第1部では、グレーゾーン事態やハイブリッド戦、そして宇宙・サイバー・電磁波領域など、安全保障環境の変化と我が国周辺国の軍事動向に触れている。中でも、中国・ロシアとの戦略的競争が安全保障上の最優先課題であるとの認識を示し、中国に対する抑止を強化する必要性を打ち出している。
 第2部では、新防衛大綱、新中期防、令和元年度の防衛力整備、そして平和安全法制施行後の自衛隊の活動状況について触れている。その上で、第3部は、我が国防衛の柱として、我が国の防衛体制について、グレーゾーン事態、島嶼防衛、宇宙・サイバー・電磁波などの新領域、そして大規模災害への対応を取りあげている。加えて、日米同盟、諸外国との協力体制の重要性を指摘している。
 最後に第4部では、防衛力を支える人的基盤や衛生機能、防衛装備・技術に関する諸施策、そして、地域社会・国民との関りを取り上げ、安全保障問題に対する国民の理解と協力の重要性を述べている。
 質疑応答では、日本の防衛体制が相変わらず専守防衛になっていることや、憲法改正が実現しないことに対する安全保障上の問題点等々、白書作成に当たって、担当部署や防衛省の所感が表れる内容にするのも良いのではないかとの意見が出た。


テーマ: 『令和元年度版防衛白書』説明会
講 師: 川嶋 貴樹 氏(防衛省官房審議官兼情報本部副本部長)
日 時: 令和元年10月31日(木)14:00~16:00

第134回
「トランプ政権は、今」

テーマ: 「トランプ政権は、今」
講 師: ルイス・リビー 氏(ハドソン研究所上席副所長)
通 訳: 古森義久 氏(JFSS顧問・産経新聞ワシントン駐在客員特派員)
日 時: 令和元年10月28日(月)14:00~16:00

第133回
「防衛行政の課題」

長野禮子 

 今回の「Chat」は、2019年7月に退官した前防衛装備庁長官の深山延暁氏をお招きし、日本を取り巻く安全保障環境の変化と日本が直面する安全保障上の課題について、特に防衛装備行政の観点からお伺いした。

1、防衛大綱・中期防衛力整備計画(31中期防)の概要
 現在、日本を取り巻く安全保障環境は主要国の影響力の相対的な変化に伴い、中国・ロシアの影響力の拡大等、パワーバランスの変化が加速化・複雑化している。また、尖閣諸島周辺で活動する中国漁船や2014年のクリミア危機のように、グレーゾーンの事態が長期継続する可能性が生じている。更に、各国は戦争のありようを根底から変える最先端技術を活用した「ゲームチェンジャー」となり得る兵器の開発を推進しており、将来の戦闘様相は予見困難になりつつある。
 このような状況の中で日本は、領域横断的に有効に機能する防衛力として、「多次元統合防衛力」の構築を防衛計画の大綱において定めている。陸海空の既存の領域に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域が焦点になる。これらの領域における日本の防衛力の整備は諸外国より遅れており、一層の強化が求められる。

2、日本の防衛装備政策
 日本は、①技術的優越の確保、②防衛装備品の効率的な取得、③防衛産業の競争力強化が必要である。技術的優越の確保では、民生技術の取り込みや諸外国との防衛装備・技術協力の推進が挙げられる。
 防衛省は、日本の防衛に必要な技術に関する考え方を研究開発ビジョンとして公表しており、民間企業の予見可能性を向上させ、先行投資が可能になるようにしている。また、防衛分野での将来における研究開発に資する基礎研究を公募する安全保障技術研究推進制度を進めているが、公募に応じる研究機関が限定的で大学からの応募は少ない。
 防衛装備品の効率的な取得では、防衛装備品の高額化に伴い、装備調達を最適化するためライフサイクル(構想-研究開発-量産配備-運用維持-廃棄)を通じて管理している。構想段階からニーズを詰めて代替案を分析し、当初のコストから変動があれば見直す。
 防衛産業の競争力強化では、2014年に制定された防衛装備移転三原則により、平和貢献・国際協力の推進や日本の安全保障に資する場合は防衛装備品の移転を認め得ることになっており、「官民防衛産業フォーラム」のような官民一体で防衛装備・技術協力を促進する取組を進めている。防衛装備品の技術基盤の他国への依存はリスクがある。また、防衛装備品の国際共同開発・生産等では情報保全の問題も重要になる。

3、対外有償軍事援助(FMS)
 米国からの防衛装備品の購入は、米国政府が窓口になる対外有償軍事援助の方式を採る。対外有償軍事援助は分割して支払いを行うが、購入費は当初予算から増加する傾向があり、その予算上の圧迫が国内の防衛産業からの調達にも影響を与える。
 日本では、米国国内での調達時期に合わせてまとめて発注したり、大幅な価格の高騰が生じれば購入対象を見直したりするなど、購入費を下げる工夫をしている。

4、おわりに
 諸外国が「ゲームチェンジャー」となり得る新兵器の開発に力を入れ、日本周辺の安全保障環境が変化する中、日本は民生技術を含めた新たな技術を防衛装備品の研究開発に取り込み、厳しい予算の中で如何に国内の防衛産業を強化・維持するかが今後の課題である。日本は防衛装備品の取得を海外の防衛産業の生産のみに頼らず、自主性をもって生産できる体制を維持することが、日本の安全と繁栄を維持するために必要である。

テーマ: 「防衛行政の課題」
講 師: 深山 延暁 氏(前防衛装備庁長官)
日 時: 令和元年9月26日(木)15:00~17:00