Key Note Chat 坂町

第110回
「トランプ政権の対北朝鮮政策」

  長野禮子 

 11月のトランプ大統領のアジア歴訪で、日本にとって最も大きな成果は、北朝鮮の核・ミサイル問題についての認識を共有できたことであるが、一方、米中会談では南シナ海・東シナ海における中国の野望が浮き彫りになった。
 朝鮮半島の非核化については、これまで6者協議を始め様々な取り組みがなされてきたが、結局は北朝鮮の時間稼ぎに使われ「核保有国」として名乗りを上げる寸前まできてしまった。金正日時代から金正恩体制下の今、核実験、ミサイル発射回数は急増し、いつ何時日本海を隔てた我が国に、更に太平洋を越えた米国本土に撃ち込んでくるか、その切迫した脅威に対する戦略は、石油・食料の禁輸や海外資産の凍結などの制裁強化に中露の足並みが揃わない中ではあるが、徐々にそのレベルを上げている。トランプ大統領、マティス国防長官、ティラーソン国務長官など米国の主要メンバーの対北政策はどのような形で折り合いをつけ、どういう結論に至るのか。
 米国のアジア政策については超党派で協議し、共和党、民主党政権に拘わらず安定的な政策が望まれる。その観点では、安倍政権はアジアのみならず先進国の中で長期かつ最も安定した政権であることから、トランプ政権としてもアジアにおけるリーダーシップを日本に期待していると言える。
 確かに安倍政権では、集団的自衛権の一部容認など、日本の外交・安全保障政策については現状の国際情勢に適合する妥当なものとなり、装備面についても、陸上配備型イージス、新型早期警戒機E-2D及び第5世代戦闘機F-35の採用などにより、特に日米安全保障条約に基づくチーム・ディフェンスはより一層深化して来ていると思われるが、日米統合運用に関しては未だ発展段階にあると、メア氏は語る。

テーマ: 「トランプ政権の対北朝鮮政策」
講 師: ケビン・メア 氏(JFSS特別顧問・元米国務省日本部長)
日 時: 平成29年12月5日(火)14:00~16:00

第109回
「新しいアジア情勢の下での日台関係」

  長野禮子 

 今年(2017年)1月1日、「交流協会」を「日本台湾交流協会」と改め、「更なる関係を発展させていく」ことになった。安倍政権によって日台関係が大きく進展した証左である。
 台湾は今、日本と同様社会保障や少子高齢化の問題が散見され、国民の政府に対する眼も厳しく、蔡政権の支持率は低下している。
 日台関係を考えるに当たり、台中関係を無視することは不可欠であり、台湾人の意識も時代と共に変化して来ている。1972年のニクソンショックから45年。特に天安門事件以降の台湾人の帰属調査では、①中国人 ②台湾人 ③台湾人であると同時に中国人である―の3択では、1992年の段階では5割の台湾人が③を選択した。しかし、2015年の段階では6割の台湾人が②を選択した。更に、中国人か台湾人かの2択では、9割が台湾人であると回答した。「台湾人」としてのアイデンティティが語られる時代となったのかも知れない。
 1988年、台湾初の民撰総統である李登輝氏から、陳水扁氏、馬英九氏の3総統が登場した。李総統は、台湾海峡危機や司馬遼太郎氏との対談(台湾独立に関しても議論)などから中国から極めて危険視された人物でもある。
 李氏は司馬氏との対談で『出エジプト記』の話をされたが、恐らく台湾人は流浪の民であることを示唆したものと推察される。陳氏は「独立派」、馬氏は「統一派」である。しかし二人とも政権に就くと現実路線に転換し、陳氏は「4つのNO」(①中国からの武力行使が無い限り独立を宣言しない ②国号を変更しない ③両国論を加える憲法を改正しない ④統一か独立かの国民投票を行わない)を、馬氏は「3つの不」(①統一しない ②独立しない ③武力を使わない)、つまり現状維持を前面に出していた。 
 現在の蔡政権は、党綱領に「独立」を謳った民進党政権であり、正に中国と民進党の両方から注視され苦しい立場にあるが、所謂「一中各評」の台中コンセンサスの中で、どのように政権運営をして行くかである。中国は、蔡政権の対中政策を「不完全答案」と評し、牽制している。政権支持率が下がる中で、民進党内でも対中問題は重大なイシューであり、「事実上の独立ならば中国のレッドラインを超えない」という意見と、「事実上の独立は危険水域である」という意見で割れている。
 こうした中、蔡政権は新南向政策を打ち出し、過度の中国依存から脱するため東南アジア諸国やインドへの転向を試みており、日本との連携に期待を寄せている。新南向政策の目標となるASEAN諸国については、影響力の強い国家と対峙するため、どの国と組むかについては国内外情勢に大きく左右されるところである。
 以上、台湾や中国を始めとするアジア諸国が国力をつけてきている「新しいアジア情勢」下で日台関係を構築して行く場合、最早2国間のみの関係に留まらず、複雑な力関係を考慮し戦略的な検討が必要となろう。

テーマ: 新しいアジア情勢の下での日台関係
講 師: 谷崎 泰明 氏(日本台湾交流協会理事長・前インドネシア駐箚特命全権大使)
日 時: 平成29年11月28日(火)15:00~17:00

第108回
「トランプ大統領のアジア歴訪の成果と意義」

  長野禮子 

 2017年11月のトランプ大統領の初のアジア歴訪によって、トランプ政権のアジア政策と矛盾点が明らかになったと、以下の7点を古森氏は指摘した。
 ① 伝統的な同盟(日米同盟・米韓同盟)を重視。
 ② 経済政策(貿易など)については二国間協議を重視。
 ③ 北朝鮮にはより強固な態度で臨む。
 ④ 対中政策については硬軟使い分けるが、妥協はしない。
 ⑤ 南シナ海、東シナ海における中国の活動に対し、有志連合に基づく対中政策を講じる。
 ⑥ 民主主義、人権、法の統治といった普遍的価値観に基づく政策を貫く。
 ⑦ アジア政策の様々な施策においての矛盾、排反、不一致が散見される。
 注目すべきは、トランプ政権の対中政策の強化である。習近平主席との会談では直接中国を批判することはなかったものの、隣には北朝鮮問題を抱える同盟国、日・韓がある。北問題では中国の手腕に期待を寄せている米国だが、その対応如何では中国抜きで行動することを示唆した。また、南シナ海の「航行の自由作戦」は、オバマ政権時代よりもはるかに強化され、更に安倍首相の提唱する「インド太平洋戦略」を共有し、民主主義、自由、人権についてAPECで講演。アジアにおけるトランプ政権の安全保障政策はオバマ政権とは明らかに異なる。
 こうしたトランプ政権の外交に関する基本的理念は、9月の国連演説でも示された。北朝鮮による日本人拉致事件に触れる一方で、『原則に基づくリアリズム』を大事にすると発言した。これは、国際社会の前提は国民国家の自立であり、それらの連携こそが国際平和の基礎となるということである。
 来日前トランプ氏は、「日本は戦士(ウォーリアー)の国だから、北朝鮮から米国にミサイルが発射されたら必ず打ち落としてくれるだろう」と発言。これは、米国議会で、9.11事件の際に共に戦うと立ち上がったNATO諸国に比べ、戦おうとしなかった日本と同盟を組むことに意味があるのかとの問題提起がなされていることから、トランプ大統領の日本に対する具体的な期待と要求と見るべきであろう。
 日本はそうした状況を踏まえ、より具体的なアジア・太平洋戦略を外交・安全保障のみならず、経済面でも展開して行く必要があろう。

テーマ: トランプ大統領のアジア歴訪の成果と意義
講 師: 古森 義久 氏(JFSS顧問・麗澤大学特別教授)
日 時: 平成29年11月22日(水)15:00~17:00

第107回
「トランプ政権の対北朝鮮政策」

  長野禮子 

 10月10日、衆院選が公示され12日間の選挙戦が始まった。安倍首相は今回の解散の最大の理由を「北朝鮮危機による国難」と位置付け、併せて憲法改正の是非を問う選挙に打って出た。北朝鮮の脅威をよそに、国会での野党の追及は安倍首相に対する「モリ・カケ問題」に終始し、国家の安全保障問題を真剣に語ることはなかった。これにより確かに安倍政権の支持率は一気に10%落ち込んだが、野党の支持率が上がった訳ではない。解散風が吹き始めると野党は「疑惑隠し解散」と批判し、安倍一強政治を打倒すると息巻いているが、「モリ・カケ問題」が政権を転覆させるほどの問題ではないことを、国民は十分に理解している。政権批判を繰り返す野党が政権を奪取した暗黒の3年3ヵ月を国民は忘れてはいない。正にこの国難にあって真剣に取り組むべき問題のプライオリティを何と心得ているのか、看板を何度も架け替え立候補する“政治家”に「国民の命を守る責任」を託せるのか。具体的な裏付けもなく有権者に心地よいことを叫べば投票してくれると本気で思っているのか、強く問いたい。特に今回の総選挙は、戦後最大の危機と言われる北朝鮮の脅威に対して、誰に、どの政党に任せるかを決める重要な選挙であることを有権者は自覚しなければならない。
 さて、今回アワー氏は、主に米国民主党の左傾化が益々進んでいること、トランプ政権の北戦略、ミサイル防衛――以上3点についてお話下さった。何れも喫緊の問題として重要である。特に北の核攻撃が日韓に及んだ場合、米国は即、核による反撃を実行するかどうかであるが、それは必ずしも核攻撃ではなく通常兵器であろうとアワー氏は語る。 
 一方、トランプ大統領は10日、陸軍で話をし、「いつでも北を攻撃する準備をする」と言った。それに対しハリス太平洋軍司令官はこれを重く受け止めたということだが、マティス国防長官、ティラーソン国務長官などは米国の先制攻撃はないとしている。
 9月18日、マティス国防長官は「ソウルを危険に晒すことなく北朝鮮の核・ミサイルを無力化する軍事オプションがある」と記者団に語った。これは米軍が既にこのことにおける軍事シミュレーションの完了を意味することだと受け止めるべきだろう。米国もこれまで長きに亘り、北朝鮮に対してアメとムチを使い分けながら非核化を導いてきたことの失敗を認めたのか、日本も「対話のための対話」は無意味だとし、日米の認識のズレはない。
 米国は日本を含む同盟国と様々な軍事訓練を展開している。もし米韓軍による対北軍事行動が起こった場合、その元になるのは2015年に策定された「作戦計画5015」というものだ(10月12日付、産経新聞)。
 例えば、北の核施設を空爆する「5026」、北の体制を転覆させ、全土を占領する「5027」、北の体制動揺を受けて軍事介入する「5029」、北の経済を疲弊させる「5030」、金正恩や指導部の暗殺計画を実行する「斬首作戦」などがそれである。また、従来は北の韓国侵攻があった場合の反撃を前提としていたものが、5015では北が核・弾道ミサイルによる軍事攻撃の兆候が確認できた場合、核兵器を含む北の核・ミサイル基地への一斉先制攻撃に出る――となった。あらゆる作戦を実行し、その上で5027計画の全面戦争へと移行するということである。
 21世紀を生きる我々は、極東アジアの安全保障におけるパワーバランスが大きく揺れ動いている“現実”をしっかり受け止め、最悪のシナリオを想定しつつ、リスクを最小限に抑える戦略を立てることであるが、これが大問題である。
 北制裁に足並みを揃えつつあるかに見える中国の動向も、決して認識を共有しているとは言い難い。22日の総選挙の結果、更に、11月のトランプ大統領の訪日、続く韓国、中国訪問はどのような結果をもたらすのか注目される。


テーマ: トランプ政権の対北朝鮮政策
講 師: ジェームスE・アワー 氏(JFSS特別顧問・米ヴァンダービルト大学名誉教授)
日 時: 平成29年10月11日(火)14:00~16:00

第106回
「平成29年版『防衛白書』説明会」

  長野禮子 

 「防衛庁」から「防衛省」となって10年、我が国周辺の安全保障環境は年々厳しさを増し、殊に中国の挑発が続く尖閣諸島、北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対する政府の取り組みに国民の関心は高まるばかりである。
 白書ではこうした現状を新たな段階の脅威と位置付け、内容も表現も昨年に比べ更に「強い表現」になっていると、青柳審議官は説明する。
 巻頭特集1では、省移行後の10年間の歩みとして、安全保障、災害派遣、PKO派遣、国際緊急援助活動などが紹介され、特集2では、防衛この1年として、中国の領海侵入に対する警戒監視や領空侵犯措置、米国トランプ政権との日米同盟の強化、南スーダンのPKO活動終了、そして特集3では、女性自衛官の活躍、特集4では、「平和を仕事にする」自衛隊の多岐に亘る活動が紹介されている。(巻頭資料は下記の通り)
 戦後70年余、実現しなかった憲法改正(9条、自衛隊明記等)への機運は高まりつつあるかに見えたが、それを阻止する反対派の「闇雲」なまでの安倍政権攻撃によって、また決断の時が遠のいた。マスコミは真実を伝え、政治家はそれを吟味し、現実に沿う安保体制を実現してこそ、「国家、国民の命と財産、名誉を守る」ことではないのか。
 現在日本が置かれている状況は、公的には「平時であるとの認識」と青柳審議官は言う。これは防衛省の「必要以上に国民を混乱させてはいけない」という配慮なのかも知れないが、目に見えない化学兵器や生物兵器への対応が日本はどこまで進んでいるのか。日本攻撃の手を緩めることなく、益々拡大し続ける中国、北朝鮮の暴挙に振り回されている国家で居続けることは最早できないとする国民の苛立ちも聞こえてくる。
 年々踏み込んだ言葉とその実践に期待するものの、人類の軍事、科学技術の発展により、「20世紀の戦争」の域をはるかに超えた21世紀の軍事力に対するプロ集団による総合的な戦略、備えなしに国民の安寧はない。
 戦後のアレルギーから覚醒するチャンスは正に「今」だと捉えるべきではなかろうか。

《巻頭資料》
1、わが国を取り巻く安全保障環境
2、わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟
3、国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜くための取組
テーマ: 平成29年版『防衛白書』説明会
講 師: 青柳 肇 氏(防衛省大臣官房報道官兼大臣官房審議官)
日 時: 平成29年9月7日(木)14:00~16:00

第105回
「インドの『アクト・イースト政策』の中の日本」
「ドグラム高地での印中対立―日本にとっての意味―」

  長野禮子 

 今回は、大きく2つの発表が行われた。まず最初は、ルーパクジョティ・ボラ氏による「インドの『アクト・イースト・ポリシー』とは何か」というものである。ボラ氏によると、インドの「アクト・イースト・ポリシー」の目的は、過去停滞してしまった東南アジアと東アジアの歴史的なつながりに、再びエネルギーを与えようとするものである。特にインドの「アクト・イースト・ポリシー」にとって日本は決定的な部分を占めており、その理由として、第1に、戦略的、経済的国益が日本とインドを接近させており、インドは日本の政府開発援助(ODA)の最大の受領国であること。第2に、インドと日本は、中国への懸念を共有していること。第3に、冷戦後のインドとアメリカとの関係強化が、日本のようなアメリカの同盟国との関係を緊密化させていること。第4に、インドのナレンドラ・モディ首相と日本の安倍晋三首相の個人的関係が日印関係を後押ししていること。第5に、政党に捉われない支持があること、を挙げている。そのため、結論として、今後、インドにとって日本の重要性は増すことはあっても減少することはないとの指摘があった。
 次に、長尾氏が「ドグラム高地での印中対立:日本にとっての意味」を発表。これは6月半ばから8月28日まで、印中両軍がブータンと中国の両方が領有権を主張するドクラム高地で睨み合ったことについて取り上げ、日本の安全保障政策について分析した発表である。まず何が起こったのか、事実関係を整理した後、実際戦争が起きるとしたら、中国側はどのようなシナリオを考えているか、インド側はどのような戦略をもって対応するかについての分析である。
 長尾氏は、この地域での中国側の軍事行動は過去1962年、1967年、1986-87年の3回あり、それぞれ第三世界でのリーダーシップや、中ソ対立、ソ連のアフガニスタン侵攻への対応といった外交的な目的があったと分析している。そのため、中国は「勝利」を演出することに関心があり、「勝利」さえできれば軍事作戦は限定したい思惑があるとの分析であった。それに対してインド側の対応は、限定させずにエスカレートさせる可能性がある。何故なら、例えば、エスカレートさせる方法として、空軍の投入、米露の外交的介入、別の領土を確保して交換を狙う方法などがあるが、どれもインドが有利になる可能性があるからだ。しかも、過去にインドが実際採用したこともあり、発想として持っているとの分析であった。このような傾向から、日本はどうするべきかについての政策提言があった。
 ドグラム地区について日本大使が出した声明は明確なインド支持を意味しており、その点では成功であったこと。平時については、日本は印中国境地域でのインドの防衛力増強に協力して、日本正面の中国軍をインド正面へ分散させる政策をとるべきであり、同時に実際危機が起きたときは、インド支援のため米軍と共にインド洋へのヘリ空母派遣を行ったり、尖閣への自衛隊配備によってインド方面の中国軍をこちらへ引き付ける――などの方法があることが政策として提案された。
 質疑応答では、ドグラム高地から中国軍が撤退した理由は、中国で開かれるBRICS会議にモディ首相に参加して欲しい中国側の思惑があると指摘されているが、その一方で対立の継続は経済的な利益の面から中国にとって損失であることなどから、他の理由についての議論や、中国の行動を懸念する一方で、インドに依存し過ぎることを不安視するブータンの思惑について意見交換が行われた。
(今回は長尾賢博士執筆の「会の概要」原稿を参考に掲載する)
テーマ: 「インドの『アクト・イースト政策』の中の日本」
「ドグラム高地での印中対立―日本にとっての意味―」
講 師: ルーパクジョティ・ボラ 氏(国立シンガポール大学南アジア研究センター客員研究員)
                      長尾 賢 氏(JFSS研究員・学習院大学非常勤
日 時: 平成29年8月30日(水)14:00~16:00