Key Note Chat 坂町

第104回
「朝鮮半島情勢と日韓関係」

  長野禮子 

 北朝鮮は8月29日5時58分、平壌の順安区域付近から弾道ミサイル1発を発射した。今回は日本海側ではなく、日本列島を越え北海道の襟裳岬上空を通過し、6時12分、襟裳岬東方約1180キロの太平洋上に落下。このミサイルは中距離弾道ミサイル「火星12」と判明した。安倍首相はトランプ米大統領との2回の電話会談で、「レッドライン」を超えたこの現実に更なる制裁を加えるべく共通の認識を確認するとともに、国連安保理も緊急会議を開きミサイル発射を強く非難、発射の即時停止を求める議長声明を全会一致で採択した。今回のミサイル発射は「米国の行動を見守る」とした金正恩委員長が、米韓合同軍事演習で応えたと米国を非難、今後も太平洋に向けた弾道ミサイル発射を継続する方針を示したようだ。
 北朝鮮という国は金日成、金正日、金正恩と政権が代わっても常に悩ましい国である。第二次世界大戦終結後の1948年9月9日、朝鮮民主主義人民共和国を建国、その後の朝鮮戦争、休戦。金日成は荒れ果てた国土復興のために在日朝鮮人の「地上の楽園」帰国事業を進め、日本人妻を含む約9万人が北朝鮮に帰国した。帰国した人々の悲惨な生活ぶりは『凍土の共和国』『どん底の共和国』『暗愚の共和国』(亜紀書房)に詳しい。
 国名に掲げた「民主主義」とは正反対の独裁政治は国際社会に憚ることなく、金正日は先軍政治を唱え、朝鮮人民軍最高司令官となった。日本人拉致を認めたものの無事に帰国したのは5家族のみ。数百人ともいわれる拉致被害者の帰国は未だ目途は立っていない。 
 2003年に始まった朝鮮半島の非核化を目的とした6者協議も2007年を最後に既に10年が過ぎた。その間、皮肉にも目的を達成しつつあるのは故金正日、金正恩であり、一度手にした核・ミサイルは決して手放さない。今年も建国記念日が近い。昨年同様、核実験、或いはより高度なミサイル発射を実行する可能性は高い。
 韓国との関係もまた悩ましい。文在寅大統領は北朝鮮のこの現実にあって日米韓の連携の重要さを理解しつつも、制裁より対話を優先している。が、当の北朝鮮は一蹴した。また、中国の牽制に遭いながらもTHAAD配備を決定したものの今年中の配備は延期。当然ながら、米韓関係にいい影響を与えるとは思えない。
 日韓関係に横たわる歴史認識や慰安婦問題、徴用工問題等々は、1965年の日韓基本条約で解決済だが、その履行について日本は韓国の政権が交代する度に蒸し返され、とても未来志向の良好な関係構築とは言い難く、早期の解決は望めない。
 今後の日本の対応について、武藤大使はこう締め括る。北朝鮮への軍事的手段はリスクが大き過ぎるとともに、制裁による解決には限界があり、冷静に圧力を加えるのが最善である。韓国については、様々な問題への抗議を毅然とした姿勢で示し、国際的なスタンダードで関係増進を図ることが望ましいと。

テーマ: 朝鮮半島情勢と日韓関係
講 師: 武藤 正敏 氏(JFSS顧問・元大韓民国駐箚特命全権大使)
日 時: 平成29年8月28日(月)15:00~17:00

第103回
「米国人法律家が語る戦後日本の歩み、そして将来」

  長野禮子 

 安倍政権の支持率が、森友、加計、日報問題で急落した。ワイドショーよろしく連日報道されるこれらの問題は、国政を左右する核心となり得る問題でないことは恐らく解っていながら、一強多弱を批判する野党の反安倍政権姿勢を露呈した。7月27日、その筆頭に立ち自らの二重国籍問題を棚に上げ、政権追及の手を緩めなかった民進党代表の蓮舫氏は、先の都議選の敗北、党の求心力低下を理由に辞任を表明した。
 しかし、この一連の流れの本質を見抜いていた国民は冷静だった。日本国憲法施行から70年を迎えた今年、安倍政権の本丸「憲法改正」への国民の理解は5割を超えている。この現象に焦燥感を募らせたGHQの占領政策(WGIP)墨守勢力は何が何でもこの動きを阻止するために、「問題」や「事件」を探し拡大させ、文科省の悪しき伝統まで国民の知るところとなった。国会の場で議論すべきプライオリティをはき違えた「政治家」に対する嫌悪さえ感じた人も少なくない。今語られるべきは、喫緊に迫った中国、北朝鮮の脅威に対する国防政策について与野党がともに協議し、国家、国民を守ることが最重要課題であることを、国民は承知している。その証拠に、この騒ぎの間、野党の支持率が上がらなかったことを真摯に受け止めるべきではないか。
 自民党は年内に憲法改正草案の取りまとめを目指す方針である。5月3日、2020年の新憲法施行を表明した安倍首相は、「自衛隊が違憲かどうかの議論に終止符を打つのは私たちの世代の責任だ」とした。
 我々国民は今、現憲法が占領下におかれ施行された当時の国際情勢と著しく変貌していることを正しく認識し、益々複雑化する国際社会にあって正々堂々と主権国家としての有るべき姿となすべき役割に対し、正面から向き合える国家を目指すことこそが、「強靭な国家」足り得ることを知らねばならない。
 「アメリカ追随を許してはならない」「自衛隊は違憲だ」という矛盾を唱え続け、憲法改正を阻む諸兄は、ではどうしたらこの国を守れるのか、守り切れるのかをしっかり説明して貰いたい。
 ケント・ギルバート氏の米国人法律家だからこその数々の指摘と提案は、出席者に憲法改正に向けての新たな視点を導くものとなった。

テーマ: 「米国人法律家が語る戦後日本の歩み、そして将来」
講 師: ケント・ギルバート 氏(米カリフォルニア州弁護士・タレント)
日 時: 平成29年7月28日(金)15:00~17:00

第102回
「尖閣問題、日本は無策」

  長野禮子 

 中国の東シナ海への挑発行為が年々過激になっている。中国が「核心的利益」と主張する尖閣諸島の領有権について日本政府はこれまで、あくまでも「日本固有の領土」との認識の下、「領土問題」としての扱いを避け、領海侵入、領空侵犯に対する抗議や懸念を表明してきたものの、受け身に徹する日本の対応は果たして現実を見据えた十分な対応であったのかとの疑念が付き纏う。 
 中国のこの地域における横暴な振る舞いに記憶される、2010年9月の中国漁船衝突事件(中国漁船による海上保安庁の巡視船「よなくに」と「みずき」への体当たり事件)で、中国人船長を公務執行妨害で逮捕したものの、時の菅政権は中国の圧力に屈し処分保留のまま中国へ送還、釈放したことは、いかに日本が中国の無秩序な行動に怯み、醜いまでの友好を続けてきたかをいやが上にも確認させられた。その後、海上保安官が事の顛末をYouTubeに掲載、全国各地で時の政権への怒りや不満が噴出した。
 しかし、中国の尖閣を自国領土とする執着は今に始まったことではない。1972年の沖縄返還直後の12月、中国がその領有を主張し始め、04年3月、「釣魚臺列嶼中国領土」(尖閣は中国の領土)と刻まれた石碑20個が制作され、この海域に投入する目的であることが廈門報道で報じられている(JFSS『季報』Vol.47  P.7山本晧一氏)。海中に沈んだ石碑は100年後には中国領土であることの立派な証拠品となるのである。
 緊迫する中国の脅威に、27年度の空自機によるスクランブル回数は873回、そのうち中国機は571回と前年度と比べ107回増加(平成28年度版防衛白書)している。
 日本政府は同盟国アメリカの大統領が代わるごとに、日米同盟5条の適用を確認するが、まずは、自国の安全保障は自ら守るという強い意志とそれに沿った法整備を実現し、実行しなければ国民の安寧はない。
 「サラミ・スライス戦術」で南シナ海を奪ってきた中国の策略を教訓とし、その対応策が急がれるが、キメの一手が見い出せない日本。「日本固有の領土」に日本人が上陸できない不思議・・・近い将来、東シナ海も南シナ海と同じ運命を辿るかも知れない。
 エルドリッジ氏は言う。日本政府の東シナ海対策は「無策」だと。
 
テーマ: 「尖閣問題、日本は無策」
講 師: ロバートD・エルドリッヂ 氏(JFSS上席研究員・政治学博士)
日 時: 平成29年7月5日(水)14:00~16:00

第101回
「技術的優越の確保と優れた防衛装備品の創製を目指して」
―防衛装備庁の取り組み―

  長野禮子 

 近年の国際情勢の変化に伴う我が国の安全保障環境は益々厳しく複雑さを増している。目前の脅威から我が国を守り、大きな抑止力を生むには、精強に訓練された部隊育成と、我が国の高い技術力を一層強化すると共に、それを活用した装備品の研究開発を押し進め、技術的優越を確保しなければ強靭な国家建設は実現しない。
 今回は2015年10月1日に発足した防衛装備庁の渡辺秀明長官をお招きし、以下のことについて詳しくお話いただいた。


1、防衛装備品等の研究開発について
 ア、防衛装備庁における4つの方針
 イ、予算から見る研究開発を取り巻く環境
 ウ、研究開発関連の部署と業務

2、防衛技術戦略について

テーマ: 「技術的優越の確保と優れた防衛装備品の創製を目指して」 ―防衛装備庁の取り組み―
講 師: 渡辺 秀明 氏(防衛省防衛装備庁長官)
日 時: 平成29年5月10日(水)14:00~15:30

第100回
「蔡英文政権の一年と今後の課題」

  長野禮子 

 台湾は2016年5月20日、それまで8年間、一貫して親中路線を進め、政権末期には1949年の中台分断後初の「両岸の指導者」同士として、中国の習近平主席と歴史的な首脳会談を実現した国民党・馬英九政権から、民進党・蔡英文政権に交代した。そしてそろそろ一年が経つ。
 日本は日台が共有する歴史的経緯や、地政学的安全保障の上からも最重要地域であり、謂わば「運命共同体」としての認識の下、72年の断交以降も深い交流が続いている。「一つの中国」を唱える中国と一線を画す蔡政権の誕生は、同時に我々日本国民にとって政治的にも心情的にも歓迎するものであった。
 しかし、親中路線を加速し続けた馬政権の政治的経済的残滓はそこかしこにあり、蔡総統の政権運営は決して容易ではないようだ。トランプ米大統領は就任直後、中国の習主席に先立ち蔡総統との電話会談を実現した。が、米国は「台湾は中国の一部ではないが、国際社会での主権国家としての立場は認めない」との位置付けである。また、「中華人民共和国」は“チャイナ”、「中華民国」は“チャイニーズ”と実に紛らわしく、中国と中華民国との線引きが出来ていない。2007年、当時の陳水扁総統は国連の潘基文国連事務総長(当時)に「台湾」名での国連加盟を求める親書を送ったが、「台湾は中国の一部」との理由でこれを受け入れなかった。1971年、国連は「台湾は中国の一部」であるとの決議はしていない。 
 一方、台湾政府も「中華民国」と「台湾」のどちらかという明確な立場を主張していない。台湾はこれまで一刻たりとも中国共産党の支配を受けたことはないのだが、これも謂わば「台湾の悲哀」の一面なのか。 
 国民党、民進党と政権交代しても中台関係は時には微妙に、時には激しい緊張関係を伴いながら現在に至る。しかし実態としては「台湾=事実上の国家」として生き続けていると許氏は語る。台湾人としてのアイデンティティを確立した今、未だ独立国家としての主権を有することが許されない現実は、実に哀しい。国際社会の理解を得るための具体的努力を、我々日本人が躊躇わずに堂々と進める時代はいつ来るのだろうか。
テーマ: 「蔡英文政権の一年と今後の課題」
講 師: 許 世楷 氏(JFSS特別顧問・元台北駐日經濟文化代表處代表)
日 時: 平成29年4月12日(水)14:00~17:00

第99回
「弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な評価に関する提言」

  長野禮子 

 今春は彼岸を過ぎても行きつ戻りつの天気で、なかなか予報通りの開花とはならなかったが、ここにきて窓外もやっと薄桃色の景色を楽しめるようになった。満開の日も近い。
 3月末、自民党安全保障調査会は「敵基地攻撃能力」の保有に関する提言書をまとめ、政府に提言した。この「敵基地攻撃能力」(政府は自民党案を受け、「敵基地反撃能力」とした)の保有に関しては、これまで「憲法9条」「専守防衛」の原則に反しないとなっていたが、何も進展はなかった。
 このことは皮肉にも北朝鮮の核実験やミサイル発射等の挑発行為が特に最近頻度を増し、我が国のEEZに落下したこと等による航空機や船舶への脅威と、移動式発射台や潜水艦からの発射、固形燃料による弾道ミサイル発射やロフテッド軌道による発射等々の技術を持ちつつあるとみられる新たな段階の脅威に突入したとの認識の下、自民党がやっと重い腰を上げたということだろう。
 北朝鮮は、米中首脳による北朝鮮問題についての会談を前日に控えた今日(5日)もミサイルを飛ばし、日本海に着弾した。国内メディアやイデオロギーによる反発や抵抗があったにせよ、遅きに失した観は否めない。が、「新たな段階の脅威」を日米共有の認識として、北朝鮮の暴挙を挫き、国家国民の安全を確たるものとするための一歩となったことに期待したい。
 民進党の蓮舫代表のように、「平和国家の礎が、ガラガラと音を立てて崩れるように思えて非常に懸念している」などと呑気なことを言っている場合ではない。抑止力強化に伴う防衛予算の増額も、今や多くの国民の理解の範囲にあるのではないか。
テーマ: 「弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な評価に関する提言」
講 師: 田村 重信 氏(JFSS政策提言委員・自由民主党政務調査会審議役)
日 時: 平成29年4月3日(月)13:00~14:00