Key Note Chat 坂町

第113回
「平昌五輪後の米国の対北政策」

  長野禮子 

 2月9日開幕の平昌五輪、その開会式に際し、韓国の文在寅大統領は一貫して慇懃なまでの親北対応を見せつけた。一方、安倍首相とペンス副大統領の、淡々とした態度で臨んでいる姿は、実に対照的であった。金正恩の妹・金与正の「ほほ笑み外交」に満足げな文氏は、北の核・ミサイル問題で国際的制裁を科している日米を始めとする諸外国にとって、とても褒められた外交には見えなかったことだろう。更に驚くのは、文大統領が閉会式に北朝鮮の党副委員長(工作機関トップ)の金英哲の出席を許したことである。この金英哲は対韓国政策を取り仕切る党統一戦線部長も兼ねている“テロの元締め”と言われている人物である。しかし、文氏は韓国内での反発を無視し、親北姿勢を崩さなかった。
 ペンス副大統領は帰国後の2月22日、メリーランド州の保守派の集会で、金与正を「悪の一族だ」と強く非難し、北がアメリカや同盟国を脅かすのをやめて、核・ミサイルを放棄するまで断固とした態度を取り続けると述べた。
 韓国の北融和政策を利用する北朝鮮の思惑は、過去を振り返らずとも見え見えである。こうした中で、4月末に向けた南北対話の準備は進められ、場合によっては米国を加えた首脳会談になる可能性もあるようだ。米国はあくまでも北の核・ミサイル開発を止めさせ、核放棄を迫る。米韓軍事演習は4月に延期されたが、韓国がこれ以上渋るようなことになれば、米韓関係に亀裂が入るだろう。米朝対話がもし実現するとしても、米国の基本的立場は変わらず、今回の五輪開催が米朝の緊張緩和に繋がることは考えられない。もし北が核・ミサイル放棄を認めなければ、取り上げるしかなく、米国の先制攻撃の可能性は十分にある。6者協議のような偽善的政策は最早現実的ではない――とメア氏は語る。
 米国は今先制攻撃のタイミングを計っているという。これがもし現実のものになった時、日本はどのような対応をするのか、その準備はできているのか。東アジアの安全保障は保たれるのか。
 韓国でのオリンピック開催と言えば1988年のソウル五輪の前、北朝鮮が五輪開催妨害を目的としたと言われた大韓航空機爆破事件が思い出される。今回は「ほほ笑み外交」の正にその裏で、北は韓国政府、韓国大企業等へのサイバー攻撃を繰り返していたことが分かった。これまでの北の対米、対韓、対日戦略の実態を踏まえ、今後の動きを冷静に見届けることは勿論、同じ轍を踏まないよう今度こそ厳しい対応で朝鮮半島の非核化を実現してもらいたい。

テーマ: 「平昌五輪後の米国の対北政策」
講 師: ケビン・メア 氏(JFSS特別顧問・元米国務省日本部長)
日 時: 平成30年2月23日(金)15:30~17:30

第112回
「我が国の防衛産業とその課題」

  長野禮子 

 2014年4月、安倍内閣により「防衛装備移転三原則」が新しく制定された。これで長年の「鎖国」状態が解き放たれ、日本の防衛産業も一気に世界に羽ばたくことができると期待したものである。しかし、4年目を迎える今、その期待に応えている状況には決してない。
 今回は未来工学研究所の西山淳一氏をお招きし、現在の日本の防衛産業はどういう状況にあり、その課題は何かを詳しくお話いただく。
 日本の防衛産業の規模は我が国の工業生産額の僅か0.7%であり、非常に小さい。また、大手企業における位置付けは全体事業の一部であり、重工業で10%、電機企業で2~3%程度である。
 我が国は、戦後長く続いた「武器輸出三原則等」による武器輸出禁止の呪縛からまだ解き放されていないために、国際競争に晒されることもなく現在に至っている。つまり、武器輸出に関しては「思考停止」状態を続け、ある意味「鎖国の平和」を享受してきたのである。企業が防衛事業を「リスク」だと考え、「マイナスイメージ」だと思っているうちは発展は望めない。今こそ企業のマインドを変えていく必要がある。
 国内においては他の産業で産業再編は起きてきたが、航空宇宙・防衛産業では欧米において行われたような大規模な産業再編は行なわれなかった。今後、日本も防衛産業強化のためには再編を考えるべきではないか。
 従来、イノベーションは米国DARPA主導で行なわれ、軍事技術の民間への波及という形で進んで来たが、昨今は民間技術の発展のスピードが凄まじく、いかに民間の技術を軍事に取り込むかが大きな流れになっている。そのためには中小メーカーの技術を発掘する必要がある。米国ではDIUx(実験的・防衛イノベーションユニット)を開設し、シリコンバレーなどの民間技術を取り込もうとしている。日本もそのような活動を考えるべきである。
 一方、開発した先端技術を守るという意味で技術情報管理は避けて通れない。防衛省は防衛秘密に関しての管理を行っているが、政府横断的な管理が出来ていない。DSS(国防保全局)に相当する機関がない。また、秘密特許制度がないのも問題である。国家としての機密情報管理はファンダメンタルな機能だ。
 技術的にも技術情報流出防止の方策を考える必要がある。供与する技術の選定手法、基準の確立、そのためのブラックボックス化の手法を考える必要がある。ブラックボックス化に当たっては、その技術の確立と費用負担の明確化が必要である。民間会社ではエリーパワー(リチウムイオン電池の会社)のように自ら技術流出を防ぐため工場全体のブラックボックス化を行っている会社もある。
 日本が長らく行ってきたライセンス生産の時代は終わった。新しい事業形態を考える時に来ている。外国企業の買収や日米JV(ジョイントベンチャー)会社方式もあるだろう。国際競争の場に出て行くためにどうすべきかを考えるべきではないか。
 昨今、日本企業の信頼度を失うようなスキャンダルが続いているが、その信頼性を回復することが急務である。
 日本には「技術」がある。中小メーカーの幅広い技術を発掘し、新しい技術に挑戦すべきだ。技術者は新しいことに挑戦しなくなったらおしまいである。誇りをもって防衛事業に取り組んでいただきたい。

テーマ: 「我が国の防衛産業とその課題」
講 師: 西山 淳一 氏(JFSS監事・元三菱重工㈱航空宇宙事業本部副事業本部長)
日 時: 平成30年1月26日(金)14:00~16:00

第111回
「沖縄の基地政策―これでいいのか」

  長野禮子 

 沖縄は普天間基地の移転問題を始め、米軍のヘリコプター墜落や部品の落下など、様々な問題が山積している。基地政策を考える上で大事なことは、日本は『政策』、アメリカは『運用』、沖縄は『政治』の視点から、これらをどのように結びつけるかについて検討することである。米政府も基地と自治体と住民との交流を深め、普天間に駐留する米海兵隊がどのように活動し、沖縄や日本の安全保障に貢献しているかについて可能な限り開示して行くことを試みている。活動の透明性が進むことで、住民の基地への理解が深まり、不安が払拭されてくると期待したい。特に米国(ホワイトハウス)は事実論と感情論の乖離を理解し、基地政策に取り組んで行く必要があるだろう。
 また、住民との信頼関係を築くには長い時間がかかる。米軍の規則では5年以上の連続した海外勤務ができないことになっているが、この規則を在沖米軍に一律に適用することは妥当ではない。頻繁に担当者が交代するのではいつまで経っても基地の重要性を理解し合える日は来ない。
 日本には、海兵隊に相当する軍種がなく、現在陸上自衛隊が担当。在普天間基地海兵隊のカウンターパートは陸自西部方面隊である。このため、日米間で調整等を行う際の物理的障壁となることは否めない。因みに、陸海空軍については、いずれの司令部も関東地区に置かれスムーズな調整が可能である。
 止むことを知らない中国の挑発や北朝鮮の核・ミサイル問題を突き付けられている今、こうした指揮系統の問題は国家の根幹を揺るがしかねない大問題へと発展する可能性を秘めている。直ちに再考されるべきであろう、とエルドリッヂ氏は指摘する。

テーマ: 「沖縄の基地政策―これでいいのか」
講 師: ロバートD・エルドリッヂ 氏(JFSS上席研究員・政治学博士・元在沖縄海兵隊政務外交部次長)
日 時: 平成29年12月8日(金)15:30~17:00

第110回
「トランプ政権の対北朝鮮政策」

  長野禮子 

 11月のトランプ大統領のアジア歴訪で、日本にとって最も大きな成果は、北朝鮮の核・ミサイル問題についての認識を共有できたことであるが、一方、米中会談では南シナ海・東シナ海における中国の野望が浮き彫りになった。
 朝鮮半島の非核化については、これまで6者協議を始め様々な取り組みがなされてきたが、結局は北朝鮮の時間稼ぎに使われ「核保有国」として名乗りを上げる寸前まできてしまった。金正日時代から金正恩体制下の今、核実験、ミサイル発射回数は急増し、いつ何時日本海を隔てた我が国に、更に太平洋を越えた米国本土に撃ち込んでくるか、その切迫した脅威に対する戦略は、石油・食料の禁輸や海外資産の凍結などの制裁強化に中露の足並みが揃わない中ではあるが、徐々にそのレベルを上げている。トランプ大統領、マティス国防長官、ティラーソン国務長官など米国の主要メンバーの対北政策はどのような形で折り合いをつけ、どういう結論に至るのか。
 米国のアジア政策については超党派で協議し、共和党、民主党政権に拘わらず安定的な政策が望まれる。その観点では、安倍政権はアジアのみならず先進国の中で長期かつ最も安定した政権であることから、トランプ政権としてもアジアにおけるリーダーシップを日本に期待していると言える。
 確かに安倍政権では、集団的自衛権の一部容認など、日本の外交・安全保障政策については現状の国際情勢に適合する妥当なものとなり、装備面についても、陸上配備型イージス、新型早期警戒機E-2D及び第5世代戦闘機F-35の採用などにより、特に日米安全保障条約に基づくチーム・ディフェンスはより一層深化して来ていると思われるが、日米統合運用に関しては未だ発展段階にあると、メア氏は語る。

テーマ: 「トランプ政権の対北朝鮮政策」
講 師: ケビン・メア 氏(JFSS特別顧問・元米国務省日本部長)
日 時: 平成29年12月5日(火)14:00~16:00

第109回
「新しいアジア情勢の下での日台関係」

  長野禮子 

 今年(2017年)1月1日、「交流協会」を「日本台湾交流協会」と改め、「更なる関係を発展させていく」ことになった。安倍政権によって日台関係が大きく進展した証左である。
 台湾は今、日本と同様社会保障や少子高齢化の問題が散見され、国民の政府に対する眼も厳しく、蔡政権の支持率は低下している。
 日台関係を考えるに当たり、台中関係を無視することは不可欠であり、台湾人の意識も時代と共に変化して来ている。1972年のニクソンショックから45年。特に天安門事件以降の台湾人の帰属調査では、①中国人 ②台湾人 ③台湾人であると同時に中国人である―の3択では、1992年の段階では5割の台湾人が③を選択した。しかし、2015年の段階では6割の台湾人が②を選択した。更に、中国人か台湾人かの2択では、9割が台湾人であると回答した。「台湾人」としてのアイデンティティが語られる時代となったのかも知れない。
 1988年、台湾初の民撰総統である李登輝氏から、陳水扁氏、馬英九氏の3総統が登場した。李総統は、台湾海峡危機や司馬遼太郎氏との対談(台湾独立に関しても議論)などから中国から極めて危険視された人物でもある。
 李氏は司馬氏との対談で『出エジプト記』の話をされたが、恐らく台湾人は流浪の民であることを示唆したものと推察される。陳氏は「独立派」、馬氏は「統一派」である。しかし二人とも政権に就くと現実路線に転換し、陳氏は「4つのNO」(①中国からの武力行使が無い限り独立を宣言しない ②国号を変更しない ③両国論を加える憲法を改正しない ④統一か独立かの国民投票を行わない)を、馬氏は「3つの不」(①統一しない ②独立しない ③武力を使わない)、つまり現状維持を前面に出していた。 
 現在の蔡政権は、党綱領に「独立」を謳った民進党政権であり、正に中国と民進党の両方から注視され苦しい立場にあるが、所謂「一中各評」の台中コンセンサスの中で、どのように政権運営をして行くかである。中国は、蔡政権の対中政策を「不完全答案」と評し、牽制している。政権支持率が下がる中で、民進党内でも対中問題は重大なイシューであり、「事実上の独立ならば中国のレッドラインを超えない」という意見と、「事実上の独立は危険水域である」という意見で割れている。
 こうした中、蔡政権は新南向政策を打ち出し、過度の中国依存から脱するため東南アジア諸国やインドへの転向を試みており、日本との連携に期待を寄せている。新南向政策の目標となるASEAN諸国については、影響力の強い国家と対峙するため、どの国と組むかについては国内外情勢に大きく左右されるところである。
 以上、台湾や中国を始めとするアジア諸国が国力をつけてきている「新しいアジア情勢」下で日台関係を構築して行く場合、最早2国間のみの関係に留まらず、複雑な力関係を考慮し戦略的な検討が必要となろう。

テーマ: 新しいアジア情勢の下での日台関係
講 師: 谷崎 泰明 氏(日本台湾交流協会理事長・前インドネシア駐箚特命全権大使)
日 時: 平成29年11月28日(火)15:00~17:00

第108回
「トランプ大統領のアジア歴訪の成果と意義」

  長野禮子 

 2017年11月のトランプ大統領の初のアジア歴訪によって、トランプ政権のアジア政策と矛盾点が明らかになったと、以下の7点を古森氏は指摘した。
 ① 伝統的な同盟(日米同盟・米韓同盟)を重視。
 ② 経済政策(貿易など)については二国間協議を重視。
 ③ 北朝鮮にはより強固な態度で臨む。
 ④ 対中政策については硬軟使い分けるが、妥協はしない。
 ⑤ 南シナ海、東シナ海における中国の活動に対し、有志連合に基づく対中政策を講じる。
 ⑥ 民主主義、人権、法の統治といった普遍的価値観に基づく政策を貫く。
 ⑦ アジア政策の様々な施策においての矛盾、排反、不一致が散見される。
 注目すべきは、トランプ政権の対中政策の強化である。習近平主席との会談では直接中国を批判することはなかったものの、隣には北朝鮮問題を抱える同盟国、日・韓がある。北問題では中国の手腕に期待を寄せている米国だが、その対応如何では中国抜きで行動することを示唆した。また、南シナ海の「航行の自由作戦」は、オバマ政権時代よりもはるかに強化され、更に安倍首相の提唱する「インド太平洋戦略」を共有し、民主主義、自由、人権についてAPECで講演。アジアにおけるトランプ政権の安全保障政策はオバマ政権とは明らかに異なる。
 こうしたトランプ政権の外交に関する基本的理念は、9月の国連演説でも示された。北朝鮮による日本人拉致事件に触れる一方で、『原則に基づくリアリズム』を大事にすると発言した。これは、国際社会の前提は国民国家の自立であり、それらの連携こそが国際平和の基礎となるということである。
 来日前トランプ氏は、「日本は戦士(ウォーリアー)の国だから、北朝鮮から米国にミサイルが発射されたら必ず打ち落としてくれるだろう」と発言。これは、米国議会で、9.11事件の際に共に戦うと立ち上がったNATO諸国に比べ、戦おうとしなかった日本と同盟を組むことに意味があるのかとの問題提起がなされていることから、トランプ大統領の日本に対する具体的な期待と要求と見るべきであろう。
 日本はそうした状況を踏まえ、より具体的なアジア・太平洋戦略を外交・安全保障のみならず、経済面でも展開して行く必要があろう。

テーマ: トランプ大統領のアジア歴訪の成果と意義
講 師: 古森 義久 氏(JFSS顧問・麗澤大学特別教授)
日 時: 平成29年11月22日(水)15:00~17:00